やっぱり不思議?コロナ禍における6月定時株主総会には瑕疵があるのではないか?

今年は数社の上場会社さんから「有事の定時株主総会」としてご相談を受け、リモート会議でいろいろと考えるところがありました。いまでも6月総会は完全延期すべきだった、という意見は変わりませんが、現実的には(配当基準日の関係もあり)6月総会を多くの会社が実施しました。そして、終わってみると、やっぱり有事の定時株主総会には、どういうわけかスッキリしないものが残りました。

(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)

たとえばコニカミノルタ社のこちらのリリースを読むと、とてもスッキリするのです。株主総会への出席について、議決権の事前行使を推奨したうえで、当日の自粛要請をしています。まさに、今年の定時株主総会における運営としては典型的な対応ですね。そして、そのうえで当日の株主総会の様子をライブ中継するそうです(もちろん議決権を有する株主のみ閲覧可能)。

以前、株主総会への出席を一切許可しないような株主総会においては、かならず当日の総会の様子をライブ中継もしくは動画による録画配信が必要ではないか、と書きましたが、コニカミノルタ社のように、株主に対して定時株主総会への出席自粛を要請し、議決権の事前行使を推奨している上場会社であったとしても、やはり当日の株主総会の様子をライブ中継もしうは録画配信する必要があるのではないか、と思えてきました。

たとえば会社の自粛要請に従って、当日に(出席して)質問したいことについて、会社の運営に協力する形で事前質問状を出したとします。会社はこの事前質問に対して、誠意をもって総会当日に回答しました。しかし、質問をした当の本人は会社の要請どおりに出席していないのですから、ライブ中継もしくは録画配信でもなければ、取締役が説明責任を果たしたのかどうかすら確認できません。また、会社の要請に従った株主には、総会招集手続きや総会手続きに問題があったとしても、録画配信でもなければ、これを確認する機会が付与されていないのです。

会社側としては、「株主の皆様には、出席しようと思えばできたのだから、総会決議の取消事由の有無を確認する機会は付与されています。現に、当日は40名余りの株主の方々が現実に出席しておられました。したがって決議取消権は放棄したものと取り扱わせていただきます」といったことで対応するのかもしれません。

しかし、(例年の総会のように)株主の都合で議決権を事前に行使して総会に欠席したのであれば「決議の取消提訴権の放棄」と言われても仕方ありませんが、会社側の「たとえ健康状態に問題がなくても出席を控えよ」との要請によって当日は出席を断念し、議決権を事前に行使した株主に対して、すくなくとも会社側から「決議取消の提訴権の放棄の意思表示」を黙示に認めることはできないでしょう(たぶん裁判官も認めてくれないはず)。

会社法831条1項は、株主総会の招集手続きや決議の方法に、法令違反や著しく不公正な事由がある場合には、株主(1単位の株式保有でも可)は総会決議の取消を裁判所に求めることができる、と定めています。たとえば過去の判例では、他の株主にとっての瑕疵を根拠として総会決議の取消の提訴権を行使することもできるとしていますし(最高裁判決昭和42年9月28日民集21巻7号1970頁)、また決議当時の株主に限らず、当該決議の後に株主になった者も取消の提訴権を行使できるとされています(新基本法コンメンタール「会社法3(第2版)」381頁)。

つまり、株主に決議取消の提訴権を認めたのは、株主に共益権の一種としての監督是正権を付与した趣旨である、と理解されています。そうだとすると、やはり会社側の出席自粛要請を受けて欠席をした株主に対しては、当該共益権の放棄の意思表示を推認することはできないと思います。

そう考えますと、先のコニカミノルタ社のような対応が必要になるわけですが、6月総会終了後に(株主限定で)当日の株主総会の様子をライブ中継または録画配信している上場会社はかなり少ないように思います。つまり、会社側が、株主の有する共益権(決議取消提訴権を前提とした監督是正権)を違法に侵害している、として総会手続きに瑕疵があるのではないか、との疑問が湧いてきます。そして、この発想は、今後「バーチャル株主総会」が会社法上で実現する過程においても、かならず考慮されなければならない論点ではないかと考えます。

なお、「たった1単位の議決権しか保有していない個人株主がガタガタ文句言ったとしても、会社法831条2項(裁判所による裁量棄却)で終わりでしょう」と言われて、議論の実益もないように思われるかもしれません。しかし、裁量棄却の規定は「株主総会の民主主義」が成り立つ場面(会社全体のために個々の株主が我慢する)で適用されるものであって、「株主総会の立憲主義」が成り立つ場面では適用されないでしょう。

ちなみに831条の総会決議取消提訴権は「立憲主義」に関わる規定です(他の株主の利益ために、一人の株主に会社全体の監督是正権を認めたもの)。したがって多数決原理(=会社運営の効率性重視)をもってしても制限できない権利です。だからこそ、会社側の自粛要請に真摯に対応した株主の方々にこそ、この権利は最大限尊重する必要があるように思います。


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年7月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。