景気の足音

6月末に3つの衝撃がありました。シルク ド ソレイユの破産、アメリカ シェール開発大手のチェサピーク エナジーの経営破綻、そして日本からは東証一部上場の自動車空調部品メーカー、サンデンHDが事業再生ADRを申請したことです。これらがほぼ1日の間に起きました。日経にはほかにも大阪の旅行会社が351億円の負債を抱えて民事再生を申請したと報じられています。

(写真AC:編集部)

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実は日本の5月の倒産件数はわずか314件で1964年の295件に次ぐ56年ぶりの記録的低水準でした。コロナの真っ只中、なぜ記録的低水準だったかと言えば政府などの支援策が次々と発表になったこと、倒産を受け付ける裁判所が業務を縮小していたこと、企業側が相談する相手である銀行や弁護士すらなかなかやり取りができなかったことなどで「倒産したくても倒産できない」状態にあったとみられます。

ところが6月に入り、徐々に緩和策がとられ、ある意味中途半端な状態が続いています。業種によっては閉鎖していた方が良かったようなところも客がいないのに営業再開せざるを得ない業種も出てきています。これが業界によっては書き入れ時の夏の間、蛇の生殺し状態となり、倒産や自主廃業が増えるシナリオになるのではないかと懸念しています。

もう一つはこれが世界規模で同時に起こりつつある点です。シルク ド ソレイユはラスベガスの常設を含め、世界各地で公演をするサーカスですが、その高いレベルはいつも注目されていました。更にNYのブロードウェイミュージカルは21年1月3日まで全公演が中止となりました。こうなるとパフォーマーの生活が立ち行かなくなるわけで業界をどう維持するのか、困難を極めると思います。

カナダではコロナの対策として商業不動産の賃料支援策として4-6月の3カ月分について前年同月比の売り上げが70%を超えて減少した場合、大家がテナントに25%の賃料減額をする条件で政府が50%の賃料を保証するプログラムがあります。(つまりテナントは75%の賃料減額。)しかし、そのプログラムは6月末で終わり、今のところ延長はありません。では街中を見ればどうかと言えば店舗に客が入っているところはまだまだ少ない状態にあります。つまり、どの国も政府が何らかの支援策を施していましたがこの薬が切れるこの夏こそ、一番苦しい時期になるのです。

倒産、自主廃業の増加と共に企業のリストラ旋風が吹き荒れるのも確実だとみています。日経には「中東、出稼ぎ100万人流出へ、低賃金労働の担い手失う、アジアは帰国で送金減痛手」とあります。中東にはアジア各国から出稼ぎ労働者が多く集まっていたものの原油価格の低迷もあり、仕事がなくなったわけです。出稼ぎ労働者が本国に帰国するのは中東各国にとってもアジア各国にとっても頭の痛いlose -loseの関係になってしまうのです。

日本では5月の完全失業率は2.9%、完全失業者数は197万人と悪化の傾向が見て取れます。ただし、個人的には日本は労働市場に戻らない労働力(高齢者や女性)がかなり出る上、外国人労働者が実質的に締め出されるため、統計的な数字はさほど悪化しないとみています。ただし、労働市場の縮小を通じた経済のContraction (収縮)はシビアな形となって現れ、物価を押し下げる公算が高まってきたように感じます。

秋というのはいつも嫌な経済的インパクトがあります。ブラックマンディやリーマンショックなど概ね秋に衝撃的インパクトが来ます。それは夏は経済的に良い時期で、夏休みもあり、動きづらい中でで9月に仕事に戻るととんでもないことになっていたというショックから引き起こされる要因があります。

私はコロナは経済の電源を抜いただけと申し上げました。確かにうまく経営しているところもたくさんあります。しかし、一般論からすればここまで長くかつ、コロナが引き起こす「新常態」が今一つ何なのか、掴み切れないとなれば消費や投資へのマインドの低下を伴って景気は厳しくなるかもしれないと考え直しています。今回は業種や企業によりムラが出ると思います。いかに影響を回避するか、知恵を出したものが生き残るように感じます。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年7月3日の記事より転載させていただきました。