連載⑨ 第2波の過酷な現実 モンテカルロシミュレーションで検証

仁井田 浩二

Johnson/flickr

1.高齢者は自粛をほどいていない

感染者は6月の始めから増加に移りましたが、死亡者は現在でも増加の傾向はほとんど見られません。もちろん、最近の日毎の死亡者は1、2人のオーダーですから統計的変動が大きいため確定的なことは言えませんが、死亡者の変動は感染者の変動から2週間程度の遅行指標ですので、既に増加の兆候が見えている時期です。

感染者数の上昇は自粛解除に伴う60歳以下の行動変化によるものですが、死亡者の増加がまだ見られないということは、60歳以上の高齢者が緊急事態宣言解除後も厳格に自粛を継続している証です。

今後、現在の高齢者の厳しい自粛を継続したとしても、図1、2のように死亡者、即ち高齢者の死亡者数は増加してくるというのが新しいシミュレーションの結果(紫線)です。高齢者の自粛、即ち若年層との接触をいくら厳格に抑制しても、60歳以下の感染者がこの調子で上昇すれば高齢者死亡者の増加は防ぎきれません。

2.新しいシミュレーション

これまでのシミュレーションモデルでは、新規患者数と死亡者の日毎変化、それと2月からの陽性者、死亡者の総数を合わせるように、感染者の初期分布、実効再生産数Rを決めて解析してきました。

しかし、感染者は若年層が主ですが、重症者、死亡者はほとんど高齢者というのが特徴です。これまでの死亡者は60歳以上が917人、60歳以下が52人(表1)です。このことを考慮して今回のシミュレーションでは、国民の年齢層を60歳以上、以下の2群に分けて解析しました。

3.新しいシミュレーションの予測値

図1、2は、新規感染者(赤)、死亡者(青)の日毎変化です(図1が線形表示、図2が対数表示)。緑線と黒線の結果は連載⑧の再録で、年齢分布を仮定せずに計算した結果です。

年齢層2群のシミュレーションのベンチマークとして、表1で7月1日までの計算結果、陽性者数、死亡者数(緑部分)を、厚生省のデータ(黄色部分)と比較しました。図で示した新規患者数と死亡者数の日毎変化と共にこれら総数もデータを良く再現しています。

このシミュレーションを用いて得られる、7月1日から8月31日までの2ヶ月間の新規患者数と死亡者数の予測値を表2に示します。

4.年齢別で分かったこと

今回の結果(図1、2の紫線)は、実効再生産数RをR=0.89で始めて、4月7日から自粛の効果でR=0.31に落とします。5月18日の自粛解除後は、高齢者の実効再生産数はR=0.31からR=0.41までしか上げず、60歳以下のRは順次大きく増加させ、両者合わせて6月7日まではR=1.10、それ以後はR=1.49という値で感染者数と死亡者数のデータを再現しました。

今回、年齢を2群に分けたシミュレーションで重要なことが分かりました。実効再生産数Rは、自粛解除の5月18日までは年齢2群とも同じ値で問題ありませんでしたが、自粛解除後は2つの年齢層で全く違うRを使わないとデータを再現できませんでした。これは、現状を解析するうえで重要な知見です。つまり、現状で自粛解除の程度は若年層と高齢者では著しく違うということです。

5.第2波の過酷な現実

強調しなければならないのは、表2の予測値は、高齢者の厳しい自粛の状況下で実現されている数字であるということです。高齢者の自粛が緩めば、すなわち高齢者のRが若年者のRと同じレベルになるなら、高齢者の死亡者数は表2の予測値より急激に上昇します。

シミュレーションの結果は、実効再生産数Rを年齢別に異なる値をとっても、死亡者の増加率(図2の傾き)は最終的には感染者の増加率(図2の傾き)に連動することを示しています。もし今後、感染者数だけが上昇し、死亡者が増加しないということが観測されれば、全く違った要因(例えばウイルスそのものの弱毒化等)が考えられます。

今回の感染者数再上昇で分かったことは、自粛の効果は、それなりに「あった」ということです。また、今回のシミュレーションで明らかになったことは、60歳以上の自粛は現在も継続されているということです。

今後の対策もここにヒントがあります。解除されたものの中で何が最も効果があったのかを洗い出し、対策として実行することが求められます。