バイデン候補とサンダース議員の政策提言に、中国の文字はなく

安田 佐和子

バイデン候補は8日、民主党大統領指名争いで戦ったサンダース上院議員と設立した合同作業部会を通じ政策提言を公表しました。8月17~20日にウィスコンシン州ミルウォーキーで開催予定の民主党大会を経て公表される、党の政策綱領の基盤と言えます。

(カバー写真:Antonio R. Villaraigosa/Flickr)

(カバー写真:Antonio R. Villaraigosa/Flickr)

政策提言は110ページに及び6つの政策を柱とし、それぞれの分野にバイデン候補とサンダース議員が指名して参加した民主党有力者や現役議員、専門家が名を連ねます。選ばれたメンバーに関する要点は、以下の通り。黒人差別撲滅運動のブラック・ライブズ・マターが全米を席捲するだけあって黒人比率が高く、また女性の登用も目立ちます。さらに、インド系米国人の名前も比較的多くみられました。

・バイデン候補の指名→31人(1の環境分野のみ6名、他は全て5名ずつ)
・サンダース議員の指名→18人(1分野につき3名ずつ)
・女性比率→約6割
・黒人比率→約4分の1(概してヒスパニック系を除く)
・インド系比率→約12%
・アジア系→日系1人、中国系はゼロ

サンダース陣営からの指名の注目は、子飼いのオカシオ=コルテス下院議員の他、MMTの提唱者であるステファニー・ケルトン氏でしょう。逆に、バイデン陣営からサマーズ元財務長官など著名な経済学者が入らなかったことは意外ですよね。

(出所:UCL Institute for Innovation and Public Purpose/Flickr)

画像:合同作業部会に参加したケルトン教授(出所:UCL Institute for Innovation and Public Purpose/Flickr)

中国系移民は全米人口の1.5%を占め、その存在感はNY市で2つのチャイナタウンが出来上がりNY州の第3外国語が中国語で、且つ中国系移民の反対でNY州民主党予備選で郵便投票が標準化できず延期となったように、決して小さくありません。しかし、今回中国系は一人も入らず。何より香港を始め対中政策も提示されませんでした。バイデン陣営から独自の対中政策を発表するとの噂が流れてから数ヵ月が経過しましたが、政策提言に盛り込まれなかったところをみると、やはり別枠で扱うもよう。一方で、この間にウォール街は対中関税引き下げを予想し始めていますが、さすがにコロナ禍において公約として掲げる可能性は低いでしょう。

バイデン氏は民主党予備選で中道寄りと評価された政策公約を掲げた手前、サンダース議員を取り込みつつ、プログレッシブな政策を取り入れたのは環境政策で概して取り上げる程度でした。医療保険については「ユニバーサル」の言葉を冠した政策提言を掲げるものの、政府の役割を拡充する案にとどめ、国民皆保険を意味するものではありません。またグリーンニューディール」、「富裕税(wealth tax)」「メディケア・フォー・オール」、「大学無償化」、「警察の解体や予算削減」などのキーワードも含まれませんでした

ただし、少なくとも2035年までに発電所の炭素汚染ゼロ最低賃金を15ドルへ引き上げ――の2点はクリアに明示されています。サンダース議員を含めた合同作業部会での政策提言は挙党体制を演出しつつ、バイデン氏の中道寄り姿勢を鮮明としたと言えそうです。果たして、若者を中心とした浮動票の獲得につながるでしょうか。

気になる6つの分野とそれぞれのメンバーは、以下の通り。

1)気候危機との戦い、環境正義の追求(Combating The Climate Crisis And Pursuing Environmental Justice)

ジョン・ケリー元国務長官(オバマ政権2期目、共同議長)
アレクサンドリア・オカシオ=コルテス下院議員(NY州、共同議長)
キャシー・キャスター下院議員(フロリダ州、上院議員の娘)
ケリー・ドゥーガン(バイデン副大統領の政策スタッフ、環境専門)
キャサリン・フラワーズ (Center for Rural Enterprise and Environmental Justiceの創設者)
コナー・ラム下院議員(ペンシルベニア州、元弁護士)
ジーナ・マッカーシー(オバマ政権2期目の環境保護長官)
ドナルド・マキーチュン下院議員(バージニア州、元弁護士)
バルシニ・プラカシュ(若手環境運動家、サンライズ・ムーブメントの共同設立者で代表)

2)刑事司法の改革を通じた地域社会の保護(Protecting Communities By Reforming Our Criminal Justice System)

チラーグ・バインズ(2010~17年に米司法省の公民権部門に所属、共同議長)
トニー・スコット下院議員(バージニア州、共同議長)
ルメシュ・アクベリ(テネシー州上院議員)
ジャスティン・バンバーグ(サウスカロライナ州下院議員)
バニタ・グプタ(人権担当の弁護士、The Leadership Conference on Civil and Human RightsのCEO)
エリック・ホルダー元司法長官(オバマ政権時)
シモーヌ・サンダース(コメンテーター、2016年民主党予備選でサンダース候補の報道担当)
ステーシー・ウォーカー(アイオワ州郡政執行官、2019年にバイデン候補に支持表明)

3)一段と力強く公正な経済の構築(Building A Stronger, Fairer Economy)

カレン・バス下院議員(カリフォルニア州、連邦議会黒人幹部会長、共同議長)
サラ・ネルソン(客室乗務員組合の代表、共同議長)
ジャレッド・バーンスティーン(2009~10年までバイデン副大統領の首席エコノミスト)
デリック・ハミルトン(オハイオ州立大学のエグゼクティブディレクター)
ベン・ハリス(2014~17年までバイデン副大統領の首席エコノミスト)
ステファニー・ケルトン(ストーニー・ブルック大学教授、サンダース候補の経済アドバイザー、MMTの提唱者)
リー・サンダース(全米州・郡・市職員組合連合の会長)
ソナル・シャー(オバマ政権移行チームのスタッフ、ブティジェッジ候補の国内政治担当)

4)全米各地に世界レベルの教育を提供(Providing World-Class Education In Every Zip Code)

マルシア・ファッジ下院議員(オハイオ州、共同議長)
ヘザー・ゴートニー(フォーダム大学教授、共同議長)
アレハンドロ・アドラー(コロンビア大学教授)
リリー・エスケルセン・ガルシア(米国教育協会の会長)
マギー・トンプソン(ジェネレーションの元エグゼクティブディレクター)
クリスティー・ビルサック(1999~07年までアイオワ州知事夫人、元教師)
ランディ・ワインガーテン(アメリカ教員組合連盟の会長)
ヒロカズ・ヨシカワ(NY大学教授)

5)全ての人に手頃で質の高い医療保険の達成(Achieving Universal, Affordable, Quality Health Care)

プラミラ・ジャヤパル下院議員(ワシントン州、共同議長)
ビベク・マーシー(2014~17年まで公衆衛生局長官、共同議長)
ドナルド・バーウィック(2010~11年までメディケア・メディケイドサービスセンター所長)
アブドゥル・エル・サイド(デトロイト市厚生局のエクゼクティブ・ディレクター、CNNコメンテーター)
シェリー・グライド(NY大学院公共サービス部門の学部長)
メイ・ケイ・ヘンリー(国際サービス従業員労働組合の元会長)
クリス・ジェニングス(2014年からオバマ政権の保険政策担当アドバイザー、超党派政策センターのフェロー)
ロビン・ケリー下院議員(イリノイ州)

6)21世紀型の移民制度の創設(Creating 21st Century Immigration System)

ルシール・ロイバル・アラード下院議員(カリフォルニア州、共同議長)
メリエレナ・ヒンカピ(国立移民法センターのエクゼクティブ・ディレクター、共同議長)
クリストバル・アレックス(バイデン候補の政策アドバイザー)
ベロニカ・エスコバル下院議員(テキサス州、非営利団体の元広報担当)
マリサ・フランコ(ラテン系移民のための非営利団体Mihente共同創設者、ディレクター)
フアン・ゴンザレス(バイデン候補の政策アドバイザー)
ケイト・マーシャル副知事(ネバダ州)
ハビエル・バルデス(メイク・ザ・ロード・オブ・NYの共同エクゼクティブ・ディレクター、オバマ政権から「チャンピオン・オブ・チェンジ」を受賞)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2020年7月9日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。