連載⑩ コロナ第2波の短期予報 モンテカルロシミュレーションで検証

仁井田 浩二

Ozymon/写真AC

前回の連載⑨からたった1週間ですが、新しい患者数は、その時点の予測を大幅に上回りました。そこで新しいデータに基づき再計算しました。

1.コロナ短期予報が必要な理由

これだけ状況が変化した上に、現在、感染対策か経済かが争点となっており、この議論の論点を明確にするには、具体的な数値、それも来年、再来年の予測ではなく、直近の刻々と変化する予報値が必要です。

2.コロナ第2波の短期予報

図1、2は、いつものように、7月12日までの新規患者数(赤線)、死亡者数(青線)の日毎変化です(図1が線形表示、図2が対数表示)。(1)の緑線は、自粛の効果がなかったとした場合の予測、(2)の紫線は、自粛の効果が見えた6月7日時点の予測、その後、データが更新される度に、実行再生産数Rを大きく変更し、(3)の橙色の破線が前回7月7日の予測です。

今回、感染者数の増加をフィットするためには、6月7日からの実行再生産数Rを更に大きくする必要があります。問題は死亡者数です。6月中旬から感染者数は指数関数的に増加していますが、死亡者は減少を続けています。死亡者の変動は感染者の変動から2週間程度の遅延指標としても、7月12日現在、死亡者数の増加はもちろんのこと重症者の増加もありません。予測は7月7日の段階で(3)の橙色の破線は既に死亡者数のデータをオーバーしています。

そこで、既存のコロナウイルスに比較して、感染力は2倍、死亡率は20分の1という新しい「弱毒種」を6月9日から想定してみました。これは、疫学上の根拠をもったものではなく、このような機能を持った種を仮定して、感染者は増大するが死亡者は増加しないという現状にフィットさせるためのものです。感染力2倍というのは、人間同士の接触確率の問題かもしれませんし、死亡率20分の1というのは、重症者治療技術の向上を表すものかもしれません。

いずれにしても、この「弱毒種」を6月9日から導入してデータをフィットしたのが(4)の黒線です。まず、表1が7月8日の厚生省のデータとのベンチマークです。

表1 7月8日現在のベンチマーク
厚生省データ シミュレーション結果
感染者 死亡者 感染者 死亡者
60歳以上 5,794 920 5,771 928
60歳以下 14,066 52 14,120 50
19,860 972 19,891 978


このパラメータを用いて、表2、表3は、7月と8月のコロナ第2波の短期予測です。

表2 7月の予測
7月31日までの総数 7月 1ヶ月間の患者、死亡者
患者数 死亡者 患者数 死亡者
60歳以上 9,038 977 3,571 63
60歳以下 22,018 54 8,708 4
31,056 1,031 12,279 67

 

表3 8月の予測
8月31日までの総数 8月 1ヶ月間の患者、死亡者
患者数 死亡者 患者数 死亡者
60歳以上 45,545 1,171 36,507 194
60歳以下 107,260 64 85,242 10
152,805 1,235 121,745 204

 

3.コロナ対策の効果の見え方

今回導入した「弱毒種」の感染力が2倍という数字は、実効再生産数RがR=1.78に対応し、最近の患者数の変化をフィットするように決定したパラメータなので、それなりに信頼性があります。一方、死亡率が20分の1という数字は、現況の死亡者数が極めて少ないので、このパラメータの誤差は大きく、今後の死亡者数の変化によっては変更が必要かもしれません。

昨今のPCR陽性者の急激な上昇に対して、「対策が結果に表れるまでに2週間はかかるので早急に対策を講じないと大変なことになる」という意見が出ていますが、一概にそうとも言えません。表2、3で示した予測値は、現在の状況をそのまま継続した場合、新たな対策がない場合の予測値です。感染対策と経済を冷静に考える上で参考になる数字だと思います。

また、対策を講じた場合、結果が現れるのが2週間後、というのはそれなりに正しいのですが、では、実際にどのように現れてくるかというのをシミュレーションしました。図3の(5)の橙色の変化は、7月13日から何らかの対策を講じた結果、実行再生産数が約半分のR=0.89になった場合の結果です。考えられているより早く効果が見られます。これもシミュレーションで分かる常識とは少し異なる結果です。