「中国のジンクス」は永遠です

巨人の長嶋茂雄選手が引退する時、「巨人は永遠です」と語った話はスポーツファンならば誰でも知っている。その表現に倣って、「中国のジンクスは永遠です」という趣旨のコラムを書き出した。

▲習近平国家主席、欧州連合首脳とビデオ会談(2020年6月23日、新華社サイトから)

▲習近平国家主席、欧州連合首脳とビデオ会談(2020年6月23日、新華社サイトから)

中国では「逢九必乱」という言葉がある。西暦年の末尾に「九」が付く年は必ず大きな出来事、不祥事、政変が起き、国が混乱するというのだ。だから、2019年が始まった時、中国専門家、学者たちは一斉に「逢九必乱」を引用し、「19年は大変な年になる」と予想した。彼らの多くは米中貿易紛争が激化するという予想があったから、「19年は米中紛争の激化の年」と考えたのは当然のことだった。その予想を覆したというか、その年のハイライトは、米中貿易戦争ではなく、19年末に発生した新型コロナウイルス発生だった。

前回の米大統領選でトランプ氏の勝利を予想したメディア、専門家、世論調査はほとんどなかった。同じように、中国の場合、新型コロナ感染問題が年末に発生し、世界を激変すると予想した人は誰もいなかった。大きなサプライズだった。

「逢九必乱」は予言というより、中国の社会で定着したジンクスというべきだろう。その「中国のジンクス」は2019年も破られず、繰返されたわけだ。

中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスの感染は12日現在、世界196カ国、地域で1258万人以上が感染し、約56万人の死者が出ている。世界保健機関(WHO)は今年3月11日、世界的大流行(パンデミック)を宣言し、「戦後人類が直面した最大の挑戦」といわれ出した。その被害は中国ばかりか全世界に広がっている。

それにしても、中国人はどうして「九」の年に大騒動や騒動、政変が起きると考えるのだろうか。当方はこのコラム欄で「なぜ『予言』は時に外れるのか」というテーマで書いたが、「中国のジンクス」の場合、過去の事例がジンクスを生み出してきた。

そこで過去の事例を少し振り返ってみる。西暦末尾で「九」が付く年に過去、何が起きたかだ。

1949年・・中国共産党政権誕生、国民党は台湾に
1959年・・チベット蜂起
1969年・・中ソ国境紛争
1979年・・中越戦争
1989年・・天安門事件
1999年・・法輪功を非合法化
2009年・・新疆ウイグルで暴動発生
2019年・・新型コロナウイルス発生
2029年・・ ?

「中国のジンクス」はかなり説得力がある。ジンクスの場合、「昔はこうだったから、今回も……」といった論理から生まれてくる。予言の場合、過去の根拠や実例には基づかない。ジンクスの場合、変わらなければ「やはりジンクスだ」といわれ、そうではなかった場合、「ジンクスは破られた」と騒ぎ出す。予言や予測は当たらなければ、罵倒され、冷笑される。ジンクスの場合、破られたほうが一般的には評価されることが多い。ジンクスは基本的には良くない事例だから、ジンクスが続く限り、進展はないわけだ。

2019年がスタートした時、米中の貿易紛争を「九」の国難と受け取る中国専門家が多かったが、その「九」の年末、新型コロナが発生し、世界に大感染が起き、米中貿易紛争は脇に追いやられてしまった。簡単に言えば、経済学者の予測は「中国のジンクス」に敗北を喫したわけだ。

アインシュタインは「タイムマシーンは理論的には可能だ」と語ったことがある。人は「過去」には行けないが、「未来」への旅は理論的には可能だと説明していた。ジンクスは既に起きてしまった事例を土台としているが、予言、予測はまだ起きていない未来への観測から飛び出してくるから、予言の誤差は自然と大きくなる。(「なぜ『予言』は時に外れるのか」2019年1月13日参考)。

「中日ドラゴンズが優勝した年は政権が変わる」という。これもジンクスだ。「酉年には政治が荒れる」といったのもそうだろう。歴史が長くなれば、それだけ様々なジンクスが生まれてくる。そして、時間の経過と共に、そのジンクスは益々パワーフルとなり、それを破る事例が出てくるまで大きな影響力を誇る。

次の「中国のジンクス」は2029年だ。多くの中国国民は、29年とはいわず、出来るだけ早く中国共産党政権が崩壊することを期待している。いずれにしても、次の「逢九必乱」は世界を巻き込む大政変の年となる可能性が大きい。と、書けば、それは「ジンクス」というより、「予言」となる。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年7月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。