ここのところ、東京の企業さんからリモート形式での役員セミナー等のお問い合わせを受けることが増えました。打ち合わせもZoomやTeamsで行うのですが、なんとか担当者の方々ともコミュニケーションをとれそうなので、ウェブセミナー形式も前向きに対応したいと思います。また、ご用命がございましたらご連絡をお待ち申し上げております(以上、広報おわり…)。
7月14日の日経朝刊13面に「東芝 エフィッシモに打診-法令順守の有識者会議に参加」との記事が掲載されています。当ブログでもご紹介したとおり、アクティビストファンドであるエフィッシモは、東芝のコンプライアンス経営が不十分として、3名の社外取締役の選任を株主提案しています。
これに対して、東芝側は有識者会議を設置して(すでに内部統制やコンプライアンス経営に詳しい有識者の方々を選任していますが)、エフィッシモが推進する取締役候補者の方々に、こちらの会議体のメンバーとして迎え入れることを打診しているそうです。いわば東芝側からの和解的な提案かと思われます。
上記報道によれば、この提案についてエフィッシモ側は難色を示している、とこのと。有識者会議のメンバーも重要かもしれませんが、今の東芝にはコンプライアンス経営強化のための「独立取締役の選任が必要」と判断しているものと考えられます。
なお、上記記事では「今後も(東芝とエフィッシモとの間で)水面下での調整が続く」とありますので、今後のエフィッシモ側の動向については、私は全く知る由もありません。また、私が尊敬申し上げる古田先生(元最高裁判事)と太田氏(私からみれば元日本監査役協会会長)によるインタビュー記事(こちらの東洋経済の会社側大反論)も、会社側の反対意見がよくわかるので、とても参考になります。
全くの野次馬である私からしますと、本件については、東芝が指名委員会等設置会社の機関形態をとること、最近、内部監査部門の大幅増員によって内部監査機能の強化を図ることを決定したこと、そしてグループ会社の不正リスク管理の在り方との関連で、取締役会の構成を検討する必要があると思います。監査役のいない、つまり取締役監査委員で構成された東芝の監査部門は、必然的に内部統制システムを活用した監査活動を中心とせざるを得ない。
東芝に常勤社外監査委員の方がいらっしゃるとしても、理屈は同じかと思います。内部監査部門が大幅に強化されるわけですから(たとえ内部監査部門が社長直轄の部署だとしても)、監査委員会の権限強化のためにも内部監査部門との連携強化が望まれるところです。とりわけ今回はグループ会社で発生した不正事案なので、監査委員会の体制強化にも一理あるように思います。
ところで東芝は「指名委員会等設置会社」としての長い歴史を有する会社です。5年前の会計不正事件を契機として、少数だった社外取締役を大幅に増員して、モニタリングモデルとしての指名委員会等設置会社の強化を図ったものと思います。社外取締役にも、(会計不正事件時の第三者委員会報告書の提言を反映して)本当に立派な方が多いことは間違いない。
ただ、内部監査部門が強化され、実質的に内部統制システムを活用する監査が充実するとなれば、「オオカミ少年」になりきれる人が取締役に必要ではないかと考えます。今まで東芝の役員には「オオカミ少年」になりきれる方がいらっしゃらなかったのではないか。
エフィッシモ側の取締役候補者の方々には失礼な物言いで恐縮ですが「いざというときに、組織のために恥をかける人」「その言動から、能力面において誤解を受けることにも臆さない人」こそ、グループ会社を含めた経営管理に必要ではないか。「攻め」だけでなく「守り」の面でもリスクテイクできる人が必要ではないかと。
今朝の日経でも「空売り規制が粉飾事件の抑止を不全にした」といった事例が(一目均衡で)報じられていましたが、以前にも述べたようにエンロン事件の発端となったのも空売り専門の運用会社の(世間的にはかなり批判されていた)行動でした。
今の東芝の取締役候補者は「正解を導く能力」に長けた人たちで構成されていますが、「現場情報から仮説を立てて、(たとえバカにされても)あるべき東芝の姿からみた問題を提案できる人」が不足しているように思えてなりません(これは関西電力の取締役候補者の方々にも共通しているように思いました)。
上記日経の記事で、東芝の取締役会議長の方が「コンプライアンス経営という意味では9割はやってきたつもりだが、まだ外からは信用されていない。不正会計以降の東芝の信用回復はまだ50パーセントくらいだろう」と回答されています。一番近くで東芝のガバナンスを理解している方からすれば「東芝のために役に立つ」という視点ではほぼ完成型なのかもしれませんが「東芝のガバナンスにとって意味がある」という視点ではまだまだ不足していると思います。
ここに「信用回復という点では5割に映る」原因があるのではないでしょうか。まさに有識者会議の構成メンバーということだけでなく、増強された内部監査部門と連携して組織風土を変える可能性を世間に知らしめる社外取締役だからこそ「意味がある」のではないかと。
編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年7月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。