メキシコで2018年12月にマヌエル・アンドレス・ロペス・オブラドール(アムロ)が大統領に就任してから殺害される人は、依然跡を絶たない。昨年は3万5000人以上が殺害された。麻薬組織カルテルが蔓延る限り残虐な犯罪が続くのは確実だ。(参照:sinembargo.mx)
連邦判事ウリエル・ビリェガス・オルティツと彼の妻が先月16日に自宅で殺害されて7歳と4歳の女子が孤児となった事件から2週間も経たないというのに、26日の早朝には首都・メキシコ市政府の公安庁長官オマル・ガルシア・アルフックを乗せた車が待ち伏せしていた28人の暗殺者(シカリオ)による襲撃で3発の銃弾を受けて負傷するという事件が起きた。
銃撃戦は4分間、継続したという。シカリオが所持していた武器はバレット・セミオートライフルの口径50ミリという代物で、それが放つ銃弾は防弾車も突き抜けるほどに威力のあるものだ。この攻撃で2人の護衛と偶々そこを通っていた女性通行人が銃弾を受けて死亡した。更に、23歳の女性。45歳の男性それに3人の警官が負傷した。(参照:elpais.com)
今回の襲撃に参加したシカリオは事件の3週間前に雇われたという。4つのグループから成り、それぞれが7人のシカリオを連れていた。報酬として、一人当たり10万ペソ(46万4500円)が提供されたと見られていた。彼らを雇ったのは最も狂暴なカルテル・ハリスコ・ヌエバ・ヘネラシオン(CJNG)だと推測されている。(参照:infobae.com)
先月17日付でメキシコ紙『El Universal』によると、政府は、CJNGがメキシコ市内で誰かを襲撃するプランを練っているということを傍受した。ところが、それは政府の要人を狙ったもので、まさかメキシコ市政府の誰かを襲撃するとは想像していなかったようだ。(参照:sinembargo.mx)
CJNGがオマル・ガルシア・アルフック公安庁長官を殺害しようとしたのは、メキシコ政府アルフォンソ・ドゥラソ内務長官の説明によると、同公安長官が昨年10月に就任してからメキシコ市内で活動しているCJNGを含め複数のカルテルのメンバーを積極的に逮捕し、その中には市内の犯罪組織としては重要な位置を占めているウニオン・テピトのリーダーエル・ルナレスも逮捕したからだと見られている。彼はメキシコ市ではCJNGの協力者だ。これらの一連のことがガルシア新公安長官の指揮のもとに進められていたということがCJNGを怒らせたようだ。(参照:elpais.com)
また、専門家の間で指摘されているのは、現在刑に服している数十人を米国に送還することになっているが、それをCJNGは阻止させようとしてメキシコ政府を脅迫してゆすりにかけようという狙いがあると見られている。
アムロは就任早々からカルテルに対しては理解を示す方向にあり、シナロアのエル・チャポの息子オビディオを逮捕する寸前にあって6人の警備隊員が人質になっているということからオビディオを釈放したことがあった。それ以外にも、アムロはカルデロン元大統領が取り組んだような、武力によるカルテルの徹底的な取り締まりを実施していない。寧ろ、カルテルと対話の機会を持って平和的に問題を解決しようという姿勢だ。カルテルはそれをアムロは弱腰だと見て、アムロに圧力をかければ譲歩すると推断しているのだ。
尚、政府はこれまで米国麻薬取締局の協力のもとにCJNGが関係していると思われる銀行の2000余り口座を凍結させているという。
今回の襲撃のあと政府がカルテルからの脅威の前に厳しい姿勢で取り組んでいることに少なくとも20の自治州の州知事から政府を支持する旨が伝えられたという。一方、シナロア州や連邦判事が殺害されたコリマ州を始め11の自治州は政府に対し沈黙を守っている。
それにしても、アムロは国内移動には相変わらず一般の旅客機を利用している。だから護衛も十分に彼を守る為の体制が組織できないでいる。それを懸念している専門家は多くいる。
アムロ本人は、いつも彼が所持しているお守りが自分を守ってくれていると確信しているようだ。