二日間連続して美術館・博物館のデジタル・アクセシビリティについて記事を書いた。
美術館・博物館のオンライン情報発信に潜む課題(7月14日)
アクセシビリティ対応に動くロシアの美術館・博物館(7月15日)
新型感染症で人々の行動が変容し、美術館・博物館をオンラインで利用する人が増えた。学芸員による説明も付くので展示品に対する理解が深まり、それがきっかけで「本物を見たい」という入館者が増える可能性がある。
2020年5 月18日の「国際博物館の日」も「Museums for Equality: Diversity and Inclusion 2020(平等を実現する場としての博物館:多様性と包括性)」をテーマに掲げていた。日本の美術館・博物館もデジタル・アクセシビリティを強化して欲しい、というのが二つの記事の概要である。
美術館・博物館のデジタル・アクセシビリティには、このほかに、学校教育への貢献という別の意義がある。
小中高等学校の教室には障害を持つ子どもたちがいる。令和元年版「障害者白書」には、18歳未満の身体障害児は6万8千人、知的障害児21万4千人で、20歳未満の精神障害児も27万6千人と報告されている。合計人数を18歳未満人口で割ると2.8%になる。
文部科学省「平成29年度発達障がいに関する実態調査」(小中学校での推計)は、全国の児童生徒の中に、LD(学習障害)が0.19%、ADHD(注意欠陥多動性障害)は0.99%、ASD(自閉症スペクトラム障害)は2.35%、その他(反抗挑戦性障害など)が0.71%存在すると推定している。
ディスレクシア(難読症)を含む、「知的発達に遅れはないものの、学習面又は行動面で著しい困難を示す」とされた児童の割は4.5%である(平成25年度版「障害者白書」)。先天性色覚異常の発症率は男性の約5%、女性の約0.2%、男女合計で2.5%になる。
文部科学省(平成31年度)によると特別支援学校の通学者は14万3千人(全体の1.1%)しかいないので、何らかの障害をもつ子どもの大半は、普通教室に通学している。ザックと推計しれば、10人に一人程度、一教室に3人か4人の子どもは障害をもっている。
小中高等学校では今デジタル技術の導入が進んでいる。これらの技術は教員による一斉授業(一斉学習)だけでなく、児童生徒がチームを作って調べ物をする協働学習や、個々に勉強する個別学習でも利用される。いや、デジタル技術は、教壇に立つ教員の話を静かに聞く旧来の一斉学習よりも、協働学習・個別学習に相性がよい。
「印象派の絵画について調べよう」「生物の進化について調べよう」といった課題に取り組むときに、美術館・博物館がデジタル・アクセシビリティに対応していないと、障害を持つ子どもは取り残されることになる。その結果、美術や生物に才能豊かな障害を持つ子どもがその道に進むことを阻まれることになれば、これは大きな問題である。
子どもは大人よりも行動範囲が狭い。地方の子どもが東京に行くのは修学旅行くらいかもしれない。東京国立博物館や東京国立近代美術館に直接訪問できない子供たちにとって、デジタルで取得できる美術館・博物館情報はとても重要である。
日本の美術館・博物館がデジタル・アクセシビリティへの対応を強化するように求める。