元高校教師が考える。ツーブロックを校則で禁止していい理由

愛川 晶

私が福島県立高校の教員を定年まで勤め上げ、退職したのは2018年3月(その後、常勤講師として採用され、わずか4カ月で雇い止め)だが、当時でも頭がツーブロックの男子生徒はいて、服装検査の時などによく、「何だ。お前も震災刈りにしてきたのか」などとからかっていた。

みっく―/写真AC

ご存じの方も多いと思うが、件の髪形は大正末期、関東大震災後にも大流行したことがあり、そのことにちなんで、2011年の東日本大震災のあと、被災地の一部では「復興刈り」などとも呼ばれていたのだ。

それが突然大きな話題となり、テレビのワイドショーにも登場したのを見て、私は「また始まったな」と苦笑するしかなかった。この手の話題はずっと以前からくり返しマスコミで取り上げられてきて、「ブラック校則」などと命名し、煽ってみたところで、何も新味も感じられない。

どうせ、ほんの数日で忘れ去られるに決まっているが、これも一つの機会ではあるので、私見を述べてみたい。

今回の騒動は、東京都議会の審議で、ある議員が都立高校のツーブロック禁止の校則について質問したところ、教育長が「事件や事故に遭いやすいからだ」と答えたのが発端らしいが、それはその答弁がトンチンカンなだけで、都立高校の校則自体には何の問題もない。

みんと。/写真AC

早い話、教育委員会のトップなどに訊かずに、現場でやんちゃ盛りの生徒たちとさんざんやり合った経験をもつ私に尋ねればよかったのだ。答えは明快。以下の通りである。

「『ツーブロック』の中には、モヒカン刈りなど高校生としてふさわしくない髪形があるから」

私が勤務していた高校でも、校則として明文化はされていなかったが、ツーブロックは検査の際、チェックの対象だった。ただし、SNSでネタにされているタラちゃん程度であれば、「それ以上はいじるなよ」と一言注意しておしまいである。罰則など、もちろんあるわけがない。

指導上、問題となるのはモヒカン刈りに近いもの、あるいは昔のツッパリもどきで額の両端に剃り込みを入れたり、全体として鬼太郎のような長髪にしながら一部を剃ったり……それらも、すべてツーブロックの範疇に含まれる可能性がある。少なくとも、いわゆる生徒指導困難校の生徒の一部は「これもツーブロックだ」と声高に主張するだろう

いったん「本校ではツーブロックも認めます」などと宣言してしまえば、すべてケースバイケースで違反かどうかを判断する必要に迫られ、指導する上で莫大な労力を費やさなければならない。

だから、とりあえずは「望ましくない」という扱いにしておいて、常識的な範囲のものはチェックのみで済ませる。これはごく妥当な判断だと思う。そもそも、東京のどこかで、タラちゃんみたいな髪形をしていて、校則違反だという理由で教員に丸坊主にされた例でもあったのだろうか。そんな事件でも起きない限り、マスコミが取り上げる価値などない。

コロナ後の学校現場は、もっと別な問題で疲弊しているのだ。そっちにちゃんと眼を向けてほしい。

最後に、痛くもない腹を探られないため、あえてつけ加えるが、私が定年退職後、再雇用され、たった4カ月で現場を去ることになった理由は、福島県教育委員会がでたらめな退職者雇用制度を取っているせいで、私自身には何の落ち度もない。したがって、今後も教育問題について、言うべきことは言っていく。

詳しく事情を知りたい方はプロフィールに挙げた私の著書をお読みください。小説ですが、作品の前半はすべて実話です。