理性ではなく感情で政治をするブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領は、アルゼンチンのアルベルト・フェルナンデス大統領との不仲が影響して、アルゼンチンからの小麦の輸入を減らす方向に動いている。
先ずは、ブラジル貿易商工会議所は4万5000トンの小麦を追加して合計で75万トンの米国からの小麦の輸入を無関税で実施することを決めた。この決定はメルコスル(南米南部共同市場)に加盟しているブラジルが同じく加盟国アルゼンチンから小麦の輸入をしないということでメルコスルの合意を破ったことになり10%の課徴金が科せられることになっている。(参照:clarin.com)
例えば、2018年だと、ブラジルは704万トンの小麦を輸入したが、その内の85%に相当する594万トンをアルゼンチンから輸入している。一方のアルゼンチンは2018/2019年度は2100万トンを生産し、その内の1500万トンが輸出に充てた。即ち、アルゼンチンの小麦の全輸出量のほぼ40%がブラジルに輸出されたことになる。ボルソナロはこの輸入を今後少なくする意向なのである。(参照:infobae.com)
そこで先月22日には、ボルソナロは「マトピバ地方で小麦を栽培してブラジルの農業ビジネスを拡大することができる。なぜなら我々はアルゼンチンにかなり依存しているからだ」と述べて、4つの州バイア、トカティンス、ピアウイ、マラニャオを包括したマトピバ地方で小麦を栽培することを提案したのである。(参照:lapoliticaonline.com)
更に、ボルソナロが反アルゼンチン意識を鮮明にしていることの一貫として、中国からナシを輸入することも決めた。これはアルゼンチンのナシの産地であるアルタ・バーリェ・デル・リオ・ネグロ地方にとって致命的な決定である。
更に、ウルグアイでこれまで15年続いた左派政権に終止符が打たれて、右派のルイス・アルベルト・ラカーリェ・ポウが今年3月から大統領に選出された。そこで、ボルソナロはウルグアイそしてパラグアイの右派大統領マリオ・アブド・ベニテスと共同してメルコスル内での関税の大幅な引き下げを推進して行く考えを表明している。それはアルゼンチンのフェルナンデス大統領の関税引き上げとは全く反対の考えだ。(参照:lapoliticaonline.com)
そもそもボルソナロがアルベルト・フェルナンデスと不仲になった原因は、ボルソナロが推していたマクリ前大統領が大統領選挙で敗退したことである。しかも、アルベルト・フェルナンデスを大統領候補にしたのは副大統領に収まっているクリスチーナ・フェルナンデス・デ・キルチネル前大統領であるということもボルソナロには気に食わないことであった。
クリスチーナはルラとルセフ、エボ・モラレス、フェデル・カストロ、チャベスとマドゥロという左派で反米主義に凝り固まった指導者と繋がっているというのが理由だ。だから、ボルソナロはアルベルト・フェルナンデスとクリスチーナ・フェルナンデスのコンビが勝利するようなことになると、アルゼンチンはベネズエラと同じ道を歩むようになると懸念を表明し、アルゼンチンから移民がブラジルに流れて来ると指摘したのである。
一方のアルベルト・フェルナンデスがボルソナロへの不快を具体的に表明したのはコロナウイルスによるパンデミックで「アルゼンチンの国境を越えると(ブラジルは)ガタガタになっている」「問題に適切に注意を払っていない。人口2億を抱えている国だというのに」と述べて、ブラジルの内政を批判したことである。(参照:infobae.com)
そして、アルベルト・フェルナンデスが不快の頂点に達したのはボルソナロの息子エドゥアルドがフェルナンデスの息子エスタニスラオが性転換したゲイであることをツイートで中傷したことであった。そこにはエスタニスラオがピカチュウに変装し、自らは機関銃を手に持ったランボーにあやかった写真を掲載して、フェルナンデスの息子とボルソナロの息子の違いを鮮明化したことであった。
それに対して、フェルナンデスは「女嫌いで乱暴な人物が私のことを批判していることに祝福する」と皮肉の回答をした。(参照:abc.es)
また、ボルソナロはトランプの米国との関係強化に向かっているのに対し、フェルナンデスはEUとの関係を深める方向に動いている。
これまでブラジルとアルゼンチンは双方で第一の貿易相手国である。相互依存の強い国同士である。しかし、その関係が現在崩れつつある。