22日に見切り発車する政府の「Go Toトラベル」事業について、東京都だけを除外する「東京外し」をめぐって、非難と皮肉の応酬を繰り広げている小池百合子東京都知事と菅義偉官房長官。
一方、海の向こうに目を向けると、新型コロナウイルスの感染再拡大が止まらない米南部ジョージア州の州都アトランタ市では、マスク着用義務化条例の無効を求めて、ブライアン・ケンプ州知事(共和党)が、バイデン氏当選の際の副大統領候補の一人として知られるケイシャ・ボトムス市長(民主党)を提訴。SNS上や法廷で互いを激しく攻撃しあっている。
今月上旬、自身を含む家族が、無症状ながらコロナウイルスに感染したと発表したばかりのボトムス市長は、10日、マスク着用を義務化する条例を発表した。先月から感染者が急増し続けている同州では、早すぎた経済再開への批判もあり、同市長は同日、経済再開のフェーズを巻き戻すことも表明。
これに噛み付いたのが、共和党内でもトランプ寄りとして知られるケンプ知事。最近まで頑なにマスク着用を拒否し続けていた大統領に忖度するかのように、16日、条例の効力停止を求めて提訴した。
同州内にはアトランタ市の他にも、観光都市として有名なサバンナ市など、マスク着用を条例で義務化した自治体があったにもかかわらず、ケンプ知事が提訴したのは、ボトムス市長のみ。
11月の大統領選でトランプ氏をリードしているバイデン氏の有力な副大統領候補として全米で知名度と人気を広げるボトムス市長を牽制し、マスク着用にも有色女性登用にも消極的な保守層へアピールする狙いがあると見られる。
南部大都市の一市長に過ぎなかったボトムス市長がにわかに全米レベルの脚光を浴び始めたのは、人種差別への抗議デモから一部が暴徒化した混乱を、「(アトランタの)街を大切に思うなら、家に帰りなさい」「変化を望むなら選挙で投票しましょう」など毅然とした態度と明快なメッセージで収束させたことがきっかけ。
メディア対応のセンスも抜群のボトムス市長に警戒感を募らせたのか、ケンプ知事は、コロナ関連の越権行為とメディア対応の禁止を求める内容証明を送付。市長はすぐさま自身のインスタグラムで書類を公表し、「私が沈黙することによる犠牲は計り知れない」と応酬するなど、泥仕合の様相を呈してきた。
繰り返される人種差別による悲劇を、”Enough is enough.”(もうたくさん)とシンプルかつ力強い言葉で表現し、全米の共感を呼んだボトムス市長だが、感染者数が13万人を超えてなお、収束の兆しが見えないジョージア州の州民こそ、コロナ対策を大義名分としながらその実、大統領選をにらんだ党派対立に「もうたくさん」という思いでいるのではないだろうか。