元教師が認定する。これぞブラック校則

愛川 晶

前回の記事「元教師が考える。ツーブロックを校則で禁止していい理由」でも述べた通り、マスコミにとって校則問題はいわゆる埋め草であって、ニュースの数が足りない時などに適当に煽り、ちょっと話題になれば、それで上々。その程度の意識だろう。

案の定、今回もほんの2、3日後には呆気なく忘れ去られてしまった。この件を再び取り上げるつもりはなかったのだが、少し説明不足かなとも感じたので、若干の補足をしておきたい。

はむぱん/写真AC

前回、私が言いたかったのは、校則について語る際には、表面上の整合性だけでなく、「指導のしやすさ」もぜひ考慮していただきたいという点である。それでなくても教員は忙しいから、何か些細な点で多くの時間を奪われるような事態は極力避けなければならないのだ。

例えば、小学校などで「持参する水筒の中身は水と氷だけ」という決まりがあったとする。これに対して、「そんな校則はおかしい。お茶だって、スポーツドリンクだって、好きなものを飲んでいいはずだ。ワケワカンナーイ!」と批判するのは簡単だが……ここで、ちょっと考えていただきたい。

まず、緑茶などカフェインを含む飲料には脱水症状を引き起こす可能性があるという指摘があり、特に児童には安心して薦められない。スポーツドリンクは酸性の液体なので、金属製のボトルに長時間入れた場合、有害な成分が溶け出し、中毒する恐れがある。最近の製品はコーティングが施されているものがほとんどだと聞くが、それでも、内部に傷や錆があれば絶対安全だとは言い切れないし、糖分の過剰摂取にも注意を払う必要がある。

実は、私の家内は学童クラブの代表を務めていて、いわばこの道に関するプロなので、見解を尋ねると、「うちに通ってくる子たちの小学校は全部『水か麦茶』ね。それでいいと思うけど、ただ、保護者の方も忙しいせいか、水筒をちゃんと洗わない家が結構あるのよ。そんなのを見てると、『水と氷が一番無難だなあ』と思うわ」という答えだった。

ここで整理してみよう。水筒の中身について、もしすべて自由にするとなると、完全な自己責任にでもしない限り、小学校の側では

「緑茶・コーヒーなどカフェインを含む飲み物はなるべく入れないでください」
「スポーツドリンクを入れる場合は金属製の容器は避けてください。もし使用する際には内部に傷がないかどうか確認してください」
「スポーツドリンクを塩分やミネラル以外に糖分も含みます。過剰な摂取にならないよう注意してください」
「水以外の液体を入れる場合には必ず毎回容器をきちんと洗浄してください」

……と、これを全部指導しなければならない。

だったら、「水だけ」あるいは「水か麦茶。麦茶を入れた時にはあとでちゃんと洗って」と言いたくなるではないか。プリントを配っても家に持ち帰らない子供はかなりの数いるし、HPやメールで連絡しても、保護者全員に読んでもらうのは至難の業だ。

ここで誤解のないようにつけ加えておくが、私は校則で生徒をがんじがらめにするのは大嫌いだし、現役時代には意味のないルールはなるべく廃止するよう努力していた。そんな私の眼から見て、「これぞブラック校則」と呼ぶべき例がないのかときかれれば、残念ながら、確かにある。最後にその話をしたい。

acworks/写真AC

私は福島県立高校の教員を38年勤め上げて定年退職し、「常勤講師」として福島市内の某高校に赴任したのだが、そこの校則を聞いて、さすがに耳を疑った。それは「携帯電話・スマホは敷地内使用禁止」だ。

生徒が授業を聞かずにスマホをいじっているのはまずいから、その予防の意味を含め、スクールタイム(朝のショートホームルームから帰りのショートホームルームまで)は使用禁止という校則はよく見かけるし、放課後であってもゲームなどをやっていれば没収という決まりの学校もある。

その程度ならわかるのだが、すべての時間帯において敷地内使用禁止となると、部活動が終わって保護者に迎えを頼む際、わざわざ校門の外まで出なければならない。夜間、そして雨や雪の日もあるのだから危険が伴うわけで、まさに理不尽そのものである。

そんなルールに今時の生徒が従うはずがないと思うだろうが、もし違反を見つかれば部活動の顧問へ苦情が行くため、生徒たちは否が応でも遵守せざるを得ないのだ。

こんなとんでもない校則はなくすべきだと思い、機会を見つけて職員会議で手を挙げるつもりでいたのだが、再雇用後、わずか4カ月で詐欺紛いの解雇(形式上は雇い止め)をされたので永遠に機会を逸してしまった。もし叩きたければ、こういう校則をぜひ叩いていただきたい。その方が生徒たちのためだ。

普通、教員のOBというのはここまで踏み込んだ発言はしないものだが、私の場合、事情が事情だから福島県教育委員会には恩も義理も一切ない。もし興味をおもちの方は拙著『再雇用されたら一カ月で地獄へ落とされました』(双葉文庫)をお読みください。