多摩大学ルール形成戦略研究所(CRS)では、「細胞農業研究会」を立ち上げ、新たなルールに関する政策提言づくりに向けてヒアリング、議論を続けています。「細胞農業」という言葉を聞いたことがある人は、まだまだ少ないのではないでしょうか。
何かと問われれば、細胞を培養して、広い意味での農作物をつくるという事です。参画者は、食品製造企業、大学の研究所、畜産事業者、スタートアップベンチャー、海外団体、コンサルタント、商社等、様々な背景を持つ方々です。細胞の培養によって、作り出すことが出来る生成物は、肉、魚、甲殻類、木材、毛皮等です。簡単に言えば、細胞があり、その細胞の成長によって大きくなるものは生成できるということです。
食糧安全保障という視点で見てみます。日本では人口減少が続き、改善の糸口も見つけられない状況下にありますが、地球規模で見れば、人口は増加しています。人口が増えれば、必要とする食糧は増加します。一方で、CO2排出の増加等によって、地球環境が大きく変化した結果、気候変動が生じ、自然災害が頻発する社会になっています。自然災害が頻発すれば、天候、土壌に左右される農業では、人口増加に伴う食糧の生産増を図ることが出来なくなってしまいます。
新たな食糧市場と言う視点で見てみます。宗教に基づき、ある種の肉が食べれない教えもあります。「可能な限り食べ物・衣服・その他の目的の為に、あらゆる形態の動物への残虐行為、動物の搾取を取り入れないようにする生き方(英国ビーガン協会)」というヴィーガニズムの実践者もいます。
遺伝子操作による食糧増産には、人体に悪影響を与えるかもしれないという考えもあれば、神の領域に手を出すの良くないという考えもあります。こうした考えの人に、動物の細胞を培養し、肉を提供することが出来るようになるのです。動物は肉を提供する個体としてではなく、細胞を提供する知財として生きていくという選択が生まれてくるのです。その意味では、皮・毛皮も同様です。
培養肉の生成は、日本、米国、シンガポール、イスラエルが、テクノロジーや市場形成力で一歩先んじています。その中で、ルール形成力で日本が世界をリードしていきたいと思っています。もちろん、グローバルな市場づくりは、各国の協力で行っていく必要があります。その為にも、細胞農業研究会のヒアリングは、WEB会議システムを使い、米国やイスラエルからも参加してもらっています。その中で、消費者意識の高い日本マーケットを重要と考えていることもわかりました。引き続き、国内関係者だけでなく、海外の関係者を含めて、議論を行っていきます。
一方で、培養肉以外にも、細胞農業とは異なりますが、植物による代替肉、昆虫食等の新たな食糧の開発も進んでいます。人間は食べないと生きてはいけません。その意味では、食糧生産がサスティナブルでないと人類は継続しないということになります。新たな食糧の開発・製造法は不可欠であり、消費者にそれを受け入れてもらえることが重要です。
現況では、植物の代替肉が先行して市場に出てきているので、その動向や消費者の反応等もウオッチする事によって、培養肉が市場に出ていく時の参考にしていきたいと思っています。
培養肉は世界的に見ても、まだ研究開発のフェーズです。何を持って培養肉と言うのか、そもそも細胞培養でつくった生成物を「肉」と言うべきなのか?僕らは、とりあえず「培養肉」と呼んでいますが、名称を何にするのか?日本で生産した培養肉を「和牛」と言えるなら、何を持って「和牛」と言うのか?
新たな領域なので、ルールを作らなくてはいけないことが多数、存在しています。その為に、先ずは培養肉を中心とした提言書を秋に作成したいと考えています。もちろん、その先は他の細胞農業による生成品についてのルールも作りたいと考えています。
多摩大学ルール形成戦略研究所(CRS)が主催する各種研究会は、新たな社会課題に対して、ルール形成で貢献することを存在意義としています。
【マスコミ掲載】 毎日新聞 「培養肉普及へ企業連合発足」
編集部より:この記事は多摩大学ルール形成戦略研究所客員教授、福田峰之氏(元内閣府副大臣、前衆議院議員)のブログ 2020年7月28日の記事を転載しました。オリジナル記事をお読みになりたい方は、福田峰之オフィシャルブログ「政治の時間」をご覧ください。