千代田区議会「解散」、区長の通知は法的に妥当か? --- 佐藤 篤

寄稿

地方議員として、日本の地方自治に関する看過できない事態が生じたので、千代田区政関係者ではないが、緊急に筆を執ることとした。

千代田区長が、区議会の「解散通知」なるものを出した。

千代田区長が地位を利用して、私的に優先枠として割り当てられたマンションを購入したのではないかという疑惑について、区議会は、地方自治法に基づいて強い調査権限を有するいわゆる「百条委員会」を設置し調査を進めてきた。この中で、区議会は、区長に虚偽の答弁・証言の拒否があったとして、区長を刑事告発するに至った。

区長はこれとタイミングを一つにするように、1人12万円の給付を決めたが、自民党は、疑惑隠しではないかと徹底追及した。本会議における内田直之議員の緊急質問は、理路整然と区長の政治姿勢を正し、再考を求めるものだった。

区長も民意の代表だが、議会も民意の代表である。こうした二元代表制の下では、区長はこれに真摯に回答し、反省し、路線変更を行うべきだった。

しかし、区長は【法律上の根拠があいまいなまま】「議会の解散」に打って出た!驚くべきことである。

その理由と、これがいかに暴挙であるかを次に掲げるところで指摘しておきたい。

今回のこの区長の議会解散の理由は、報道によれば、事実上の不信任に当たるからということだが、地方議会の解散は、区長も議員もそれぞれ住民から直接選出されていることから(これを二元代表制という)、内閣総理大臣によるそれと異なり、不信任決議を受けて行われるもののほかは、厳格に制限されている。

論点① 議会の解散は地方自治法の要件だとどれにあたるのか

地方自治法に照らすと、まず考えられる解散の理由は、今回に関していうと「感染症予防のために必要な経費」(法第177条第3項)にあたるとの判断である。

1人12万円の給付は、新型コロナウイルスに関する予算であるが、これは文言条無理がある(12万円の給付は感染症「予防」ではない)。また、区長が区議会に再議に付した後の再否決が必要であるが、今回、そもそも議会による審議も未了で、区長による再議は行われていない模様なので、これは要件に当てはまらない(そもそも区長が議会にこの予算案を提案しておいて、初日に解散するとはまったく道理が通らない)。

論点② 解散は地方自治法以外の要件でもできるのか

では、地方自治法に記載された厳格な要件のほかにも、区長は議会を解散することができるのか。

今回の、議会の区長に対する刑事告発を「事実上の不信任にあたる」という判断だった場合、解釈は分かれているようである。法律で定められた要件以外にも、議会を解散することができるとする説がある一方で、解散事由は、法律により厳格に制限されているという説もあって、最高裁判決がないため、この点の要件判断は結論が揺れている。

ただ、法律で定められた議会の権限としての刑事告発をしたところで、区長の不信任にあたるというのは、虚偽答弁・答弁拒否との認定を区長の不信任にあたると解釈するものなので、いささか論理の飛躍があるように思う。また、二元代表制の趣旨からは、区長の議会との相互の抑制と均衡を図る観点から、こうした安易な解散は認めるべきではないと私は考えている。

前回区長選では小池知事の応援を得て当選した石川氏(編集部撮影)

禍根を残す区長の「危うき判断」

このように、解散の法的根拠が危うい中の区長の「解散通知」だが、この有効性については、現在の議員の失職という重大な身分に関わる争訟なので、「法律上の争訟」(裁判所法第3条第1項)にあたり、結果として最高裁まで争えば、この問題に対する初めての司法判断が出ることになると思われる。

議会の民意を尊重しない、区長の「危うき判断」は、地方自治の歴史の中で、大きな禍根と汚点を残すことになるだろう。このような勝手な法解釈がまかり通れば、議会は区長に対して適切な監視機能を果たすことができなくなる。まさしく権力の暴走を許すこととなる、重大事態だ。

さて、次の判断は千代田区選挙管理委員会となる。選挙管理委員会が公職選挙法に基づいて、この「解散」を法的根拠のないものと認めれば、区議選が執行できないこととなる。こちらの判断が注目される。

仮に、「解散」が一応有効なものとして取り扱われ、区議会議員選挙となった場合、その後の裁判で、そもそもこの解散が違法なものであったという司法判断が出た場合、新たに選ばれた区議会議員との整合性が問題となってしまう。

しかも、新たに選ばれた議員によって再び区長不信任案が提出された場合、区長は失職して、今度は区長選となる。

新型コロナウイルスという緊急事態に、本来リーダーシップを執るべき区長が、このように判断権者不在の状態を自ら作り出すことは、千代田区民の理解が得られるのだろうか。甚だ疑問である。

佐藤 篤(さとう・あつし)墨田区議会議員(自由民主党)
1985年生まれ。早稲田大学大学院法務研究科修了。法務博士(専門職)。米国・ジョージタウン大学リーダーシッププログラム(GULP)修了。外資系法律事務所に調査員として勤務した後、2011年の墨田区議選で初当選(現在3期目)。「マニフェスト大賞」優秀政策提言賞受賞。公式サイト