改めてワイドショーのコメンテーターは底が浅いと感じた。TikTok騒動のことだ。ある者は「中国に限らず米国もやっている」と言い、ある者は「生年月日やメールアドレスを知られても構わないと思ってみんな使っている」と言う。要するに問題なしとの結論だ。
番組は冒頭で、中国には国家情報法があり、中国企業は中国政府から求められれば、情報を提供する義務があると解説している。また、TikTokによる、中国からその種の要求を受けたことはなく、受けても提供しないとの談話をパネルで紹介した。
確かに番組やコメンテーターの言はその通り。だが、それはあくまで一面であって、最も重要な事実が抜けている。それは中国が共産党独裁の人権無視の全体主義覇権国家ということだ。
ネット通販を見た後に、画面の広告がいま見た商品に切り替わるのをよく経験する。情報が販売促進に使われているのだ。だが、銀行口座から金を引き出されることを除き特に不安はない。なぜか、それはアマゾンや楽天などは中国企業でないから。情報が目的外使用されないと信じられるからだ。
およそ日本や欧米先進国でその種の不正行為が行われれば、いずれ必ずや露見して法の裁きを受けるだろう。つまりは、不正をするはずがないという信頼関係や法令遵守が根付いている、自由な民主主義社会に存在する企業だからに相違ない。
危ないとされるGPS位置情報にしろ、顔認認証情報にしろ、企業(TikTok)や国家(中国)が悪用しないならコメンテーターの言は正しい。だが、中国はそれを「監視カメラ」と称し、民主主義社会はそれを「防犯カメラ」と称する彼我の差、それこそがこの問題の本質だ。
香港
次に香港。9月6日投票予定の立法議会選挙が、今月末の立候補届け締め切りを前に延期される?と報じられた(29日のサウスチャイナモーニングポスト:SCMP)。記事には林鄭長官が関係者と延期について話し合ったが、結論は月末の立候補届締め切り後に持ち越されたとある。
61万人の投票で予備選を勝ち抜いた民主派候補が拒否されずに立候補する場合、9月の結果が北京には好ましくない可能性が大。そこでコロナを理由に延期という訳だが、SCMPは「シンガポール、韓国、日本、イスラエルを含む49の国と地域が7月19日までに選挙を行った」とこれを諫める。
確かに7月のシンガポールの選挙では、投票所を880から1,100に増やす工夫をし、また「地域」の台湾高雄では6月にリコール投票を問題なく行った。SCMPは「路上でコーヒーの購入が許可されているのに、なぜ投票所に行けないのか?」との識者の談話を載せる。
選挙が延期されるかどうか明らかになる週明けに注目だ。が、中国共産党はその前に林鄭長官に二つの行動をとらせた。一つはジョシュア・ウォンの首実検、他は予備選を企画した香港大学教授ベニー・タンの解雇だ。もちろん、この両方に国家安全維持法が絡む。
タン教授の解雇について中国共産党の香港中央連絡事務所は、タンは「正当に処罰された」、「彼の言動は香港の社会的対立を深刻化させ、政治環境を害し」、学生の心を誤解させ「中毒」させた、とそのウェブサイトで声明した(28日のラジオフリーアジア)。北京が自白したも同じことだ。
他方、立候補条件である基本法遵守の誓約を拒否したとされるジョシュア(黄之鋒)は26日、担当官の質問に「中国や香港に圧力をかけるために外国の力を利用する力も意図もない」と否定、誓約拒否は「予算に対する拒否権行使の項目が、基本法に定める議員の職能と権限の範囲に反するとの疑問からだ」述べた(29日のSCMP)。
筆者は、悪法といえども法は法、一旦信念を措いて今は立法議員を目指すべきと書いたが、記事を読む限りジョシュアは中途半端だ。これでは立候補を拒否され、北京の思う壺にはまってしまう。しかも選挙自体が延期となれば、悪法を根拠に民主派勢力の弱体化が進められるに相違ない。
他方、ジョシュアが「利用する意図もない」とした外国勢力だが、28日に米国と豪州は、香港に「自由で公正な」立法議員選挙を促した。またラーブ英外相は自ら王毅外相に電話をかけ、「英国は9月の香港立法理事会の選挙を注意深く見守る」と伝えた(29日のSCMP)。
記事はEU理事会も28日、香港について「EUは、9月6日の立法議会選挙が、基本法に定められた民主的権利と自由の行使を助長する環境で行われることが不可欠と考える」と声明したとし、これらの行動は、香港各紙による選挙延期かとの報道に対応したもの、と述べている。
南シナ海
最後は南シナ海。ラジオフリーアジアは27日、フィリピンのドゥテルテ大統領の議会での談話を報じた。筆者はこれを読んで、この明け透けなところがこの大統領の人気の秘密と感じた。彼は南シナ海問題をこう述べたのだ(彼の発言の拙訳を繋ぎ合わせた)。
私はそこ(南シナ海)では無力だと認める。中国はそれを主張し、我々はこれを主張する。中国は武器を持っているが、我々にはない。だからだ。…ではどうすれば良いか。戦争をするのか。我々に余裕はない。たぶん他の大統領はできるだろう。でも私には出来ない。マニラは独立した外交政策を引き続き追求する。
国内の麻薬撲滅では、違反者を撃ち殺すと公言し、刑務所に収容し切れないほどの者(確か数万人?)が自首して来るほどの政策をとったドゥテルテにしてこの発言、ジャイアンの横暴に首をすくめるスネ夫を彷彿させる。が、米国以外の各国の内心もおおむね同じ様ではあるまいか。
しかも頼るべき国際機関はと言えば、常設仲裁裁判所は無視され、WHOやICAOは中国の言いなりでパリ協定でも中国は発展途上国だ。だからこそポンペオは、「米国は中国人に“““関与し力を与える”必要がある」と党と人を二分し、反中国に「民主主義の新しい同盟」を求める演説をした。
時に、日本にも米国か中国か旗幟鮮明にせよ、との議論がある。CSIS論文「日本における中国の影響」にも二階や今井の名が親中派として登場した。
しかし、心配無用、日米安保条約がある以上、日米同盟は堅固だ。29日も茂木外相が王毅外相の電話会談の求めに応じ、香港問題への懸念を伝えた。
冒頭のTikTokの話だが、出演者の誰かがTikTokが西側の企業になれば良いと言った。筆者も同意見で、以前ファーウェイも米国の会社になれば良いと書いた。だが、「民主主義の新しい同盟」が共産中国を普通の国に変えるなら、TikTokもファーウェイも救われる。