「民族浄化」を黙認しないために。ウイグル問題で日本ができること

牧野 佐千子

BBCが入手した強制収容所のドローン映像(BBCより

中国当局により、目隠しをされ「強制収容所」に連行されるウイグル人たちを撮影したとされるドローン映像。イギリスの公共放送局であるBBCがこの映像を入手し、番組で報道したのは7月19日のこと。ゲスト出演した駐英中国大使は、「何の映像か分からない」とあくまで「強制収容」事実を否定した。

中国がひた隠しにする「ウイグル人強制収容」の実態とは?日本にいる私たちにできることは何だろうか。

ウイグル人強制収容問題の背景

中国西部の新疆ウイグル自治区には、イスラム教を信仰し、独自の言語や文化を持つ少数民族・ウイグル人が1000万人以上暮らしている。

ウイグル人の間には以前から、中国政府による漢族との経済格差政策などに対して根強い不満がある。2009年にはウルムチで大規模な抗議デモが起きた。それが暴動へと発展し、以降、中国政府は「テロ対策」を口実に、ウイグル人への締め付けを強めてきた。

近年、欧米諸国や国際的な人権団体は、中国当局がウイグル人を不当に拘束していると批判を強めてきた。昨年アメリカ国務省が発表した人権報告書によると、80万人から200万人以上のウイグル人が、隔離された施設に強制的に収容され、拷問や虐待を受けているという。

世界ウイグル会議Facebookより

海外に亡命したウイグル人たちが7月7日、オランダ・ハーグの国際刑事裁判所(ICC)に対し、中国がジェノサイド(大量虐殺)と人道に対する罪に及んだ証拠をまとめた膨大な書類を提出。中国に対する捜査を要請した。

その提出書類では、中国当局がウイグルの女性に対し不妊手術や妊娠中絶を強制したと主張。一方で中国は、強制不妊疑惑は事実無根だとし、「収容施設はテロ行為から人々を遠ざけるための職業訓練所だ」と説明している。

BBCの映像はどのように入手したのか?

中国当局は、強制収容の実態をひた隠しにしようとしているとみられる。海外に住むウイグル人に「情報を報道機関に話せば、家族がどうなるかわからない」などと脅迫する連絡をしてくることもあるという。「現地でやっていることを外に知られるとまずいと、当局も考えているはず」。そう語ってくれたのは、日本ウイグル人協会の副会長レテプ・アフメットさんだ。

アフメットさんは、宇宙物理学を学ぶために東京大学の大学院の留学生として、18年前に来日した。留学を終えたら故郷に帰るつもりだったが、ウルムチ事件の後、帰ることが難しくなり、卒業後は日本のIT企業に就職。数年後、日本国籍も取得した。強制収容計画が始まったとされる2017年以降は、一時帰国どころか、現地にいる家族と電話やメールすらできない状態が続いているという。

中国国内では地方の役人が、ウイグル人をどこにいつ、何人送ったか、中央政府に「業務」の報告をする。その際の資料として、自分たちで撮影した画像や映像を送る。アフメットさんによると、BBCが入手した映像は、そうした中国国内の役人の報告用「内部資料」を、海外のハッカーが中国国内のネットワークを探り、入手したものだという。

アメリカで成立した「ウイグル人権法」は、日本でもできるか?

アメリカでは今年6月、議会で「ウイグル人権法」が成立。人権侵害に関わった中国の当局者に対し、米国への入国禁止や資産凍結の制裁を科すよう、アメリカ政府に求めるものだ。政府は、ウイグル自治区を納める中国高官ら4人の資産凍結などを行う決定を下した。駐日アメリカ大使館の公式ツイッターも、中国当局によるウイグル人迫害を非難する動画を紹介するなど、非難の度合いを強めている。

中国政府はこれに対し、「内政干渉だ」と激しく反発。対抗措置を取ることも辞さない構えを占めている。

日本では同じような「ウイグル人権法」の成立は難しいのか。前出のアフメットさんは、アメリカで法案成立した直後、この問題に取り組む衆議院議員長尾たかし氏に請願に行っている=写真=。

日本ウイグル協会HPより、右から2人目がアフメットさん)

ただ、「日本は親中派の国会議員さんも多く、他国の情勢に対する人権法の成立などは前例がないことも大きなネックになっている」とアフメットさんは分析する。

日本国内のウイグル人が困っていること

日本国内には、子どもも含めて2000~3000人くらいのウイグル人が暮らしている。大半が留学生で、日本国籍を取得している人も日本ウイグル協会が把握している分には、100家族ほど。

日本にいるウイグル人たちは、現地に家族を残しているが、帰れば「外国のスパイ」と見なされ強制収容される可能性が高く「怖くて帰れない」状態が続いている。

日本に暮らす多くのウイグル人たちは、これまでは、中国政府の発行するパスポートを所有していたが、ここ3年で状況が一変。収容政策と時期を合わせて、国内の中国大使館にパスポートの更新の申請に行っても、更新が拒否されるようになった。

パスポートの期限は5年だが、更新できず、期限が切れると「不法滞在」状態になってしまう。故郷にも帰ることができないウイグル人に対して、日本の入国管理局は、各地方によって対応が異なるといい、パスポートがない状態で暫定的にビザを出すところもあるが、難民申請窓口に回されるケースも多い。日本の難民申請者は、昨年約2万人だったが、滞在が認められたのはたったの65人と「狭き門」だ。

「日本の国民のひとり」が助けを求めている

日本で暮らすウイグル出身者たちは、アメリカのように中国に対して経済制裁をするなど、今すぐ強い態度にでることを日本政府に求めているわけではない。アフメットさんは、日本の国会議員たちに、日本国内のウイグル出身者を助ける「特措法」を作ってほしいと願っている。

例えば、仕送りが途絶えてしまった学生に臨時の特別奨学金を給付すること。
特例的な条件のビザを全国一律の基準で支給できるようにすること。
また、日本国籍を取得する際には、母国の法的書類などが必要だ。ウイグル人が中国に求めることは難しいが、その書類について、特別措置で対応すること。

日本国内の問題として、国内法で解決できることも多い。

また、小規模な勉強会でも、何が起きているのか、日本にいるウイグル人が何に困っていて、どういう被害(脅迫など)に遭っているか、聞く機会をつくってほしいと望む。そのうえで、「看過できない」という声明を出すなど意思表示をしてほしいという。

今後、国際社会でますます存在感を増す中国と付き合っていくうえで、ウイグル問題に限らず、暴走した状態を糺していくのは、「隣人」として重要な日本の役割だ。まずは、国内で窮状に追い込まれているウイグル人たちを、救える政策を議論すること。私たちにできることは、まずはそこからではないだろうか。