李登輝死去翌日に中国大使と会う石破茂の外交センス

李登輝氏、石破茂氏(台湾総督府flickr、Wikipedia)

李登輝総統が亡くなった翌日である7月31日に石破茂氏は国会内で中国大使と会談した。約束があったとしても延期すべきだと思うがみなさんはどう思うだろうか?

こういう日にこういうことをするのは北京に誤ったメッセージを送ることになりかねない。安倍総理がお悔やみを官邸のHPに出したのを見て、石破氏は自分は中国に忠実な日本の総理になるから宜しくとでもアピールしたかったのだろうか? 図らずも外交センスの悪さを露呈してしまった形だ。

「正論」と「Hanada」の記事

ポスト安倍について「月刊hanada9月号」において、激動する世界の中で、安倍外交を正し継承できることが何より大事だというような趣旨で、「石破茂が総理に相応しくないこれだけの理由」という記事を書いたところ、それなりに好意的な反響をいただいている。

そうしたところで、「正論」10月号では、私も「報道機関なのに事実を伝えない」を書いているのだが、田北編集長のインタビューで「ポスト安倍を直撃」というタイトルで石破茂、岸田文雄両氏を相手に切れ味のいいインタビューがされている。

そこで、ここでは、私が『月刊Hanada』で書いたことの一部と、正論インタビューの感想を紹介することにしたい。

ポスト安倍選びでは外交を重視すべき

ポスト安倍については、小川榮太郎氏がHanada先月号で『「菅義偉総理」待望論』という論文を書かれている。安倍総理再登板のイデオローグである小川氏による、政権のレガシーをいかに引き継ぐかという観点からのまことにもっともな論考であった。

しかし、私は長期的な歴史家的な立場と、安倍政権に対する客観的な観察から、次の時代にいついかに引き継ぐのが適切かという観点からこの問題を論じた。

首相官邸Facebook

ポスト安倍を論じるには、安倍政権の価値を語らねばならない。私は異論なく評価すべきは世界外交のなかで日本をメインプレーヤーして広く認めさせた外交と、6回の国政選挙の大勝利だと思う。評価はするがやや留保すべきなのは、憲法改正を発議できなかったことと、経済社会の改革に向けて安全運転が過ぎたことだ。

ボルトン元米大統領補佐官の回顧録でも、トランプ大統領に影響を与えられる希有なリーダーとしての地位が明らかになっていたが、私は真の成功はむしろオバマ政権との良好な関係だったと思う。

そういう意味で、トランプ旋風で日本に実害があまりなく、一方、日韓を始め多くの場面で日本の肩を持ってくれたのは安倍首相あってのことだし、トランプ政権が続いたた場合はもちろん、バイデン政権になったら成ったで難しい民主党政権とのスタートを上手に切るためにも安倍続投ないし、その外交路線を継承する後継者であることが極めて望ましい。

そういう意味で躊躇なく合格点を与えられるのは、岸田文雄と茂木敏充の新旧外相である。茂木氏はTPP交渉などで練達の交渉能力を発揮してきたし、ハーバード大学留学、マッキンゼー勤務だから語学力も抜群だ。国内政策についても、1980年代に東京一極集中が問題になっていたころ、「東京の不満 地方の不安」という素晴らしい著書も書いていた。あとは、国民に対する露出の仕方と党内の信頼を重要ポストを歴任する中で固めていくことだろう。最近、茂木さん腰が低くなったという評判はとてもうれしい。

茂木氏、岸田氏(Wikipedia)

河野太郎防衛相は、語学力はジョージタウン大学卒業であってネイティブ水準だし、外交問題についての見識は申し分ないのだが、相手方を過度に論破したり、批判するのは外相、あるいは、首相としては好ましい態度とは思えない。昔から外交術として、ソフトに好感を与えることを旨とするのが常識だ。

岸田文雄氏は、5年間にわたって外相として安倍外交を支えて成果は極上だった。語学堪能とまでは言わないが、通産官僚だった父親の仕事でニューヨークで小学生時代を送り発音などは結構良いとプロの通訳も誉める。

宏池会というリベラルな基盤をもち、憲法改正とか軍事協力でもタカ派的な警戒心を内外に惹起する危惧が少ないから、憲法改正を世に問う総理総裁として適任である。

ただ、問題は支持率が上がらないことである。誰でも納得するような最大公約数的な枠組みから飛び出そうとしないからである。安倍首相も無難なことばかりいってきたわけではない。さきのコロナ対策でも、収入が低下する家庭に傾斜した対策を主張するなら、反発覚悟で国民に訴えるべきだった。

それでは、菅義偉官房長官はどうか。私は官房長官からそのまま総理にというのは好ましくないと思う。る意味で尻拭いを引き受けてきたのだからモリカケや官界の不祥事などすべてを引き継いでしまうことになる。

また、霞ヶ関は菅官房長官が人事権を八年も握ってきたことの息苦しさも強く感じていいる。安倍首相も小泉内閣の官房長官からそのまま横滑りしたことが良くなかった。

石破氏についての懸念材料

石破氏については、与党の支持率が野党のそれと比べて低い状況であれば、安倍内閣に厳しく党内で反対してきた後継総裁もありうるが、与党への国民の信頼は揺るぎないも。石破氏のようにほぼ一貫して党内野党に徹し、選挙のような戦時にあってすら味方を背後から狙撃しつつけた政治家が後継者に相応しいはずがない。

首相官邸サイト

また、石破氏が改憲否定ではないにせよ、安倍内閣の8年間で積み上げてきた方向性をいちどご破算にするようなコメントをしがちなのも、国民を愚弄している。

しかし、石破氏について最大の懸念材料は、外交軽視である。石破氏は安倍政権下でも幹事長と地域創生相しかなかった。せめて、自ら外遊を繰り返すべきだ。与党の有力者なら世界各国で相当レベルの人に会えるし、ダボス会議のようなところでスピーチさせてもらうのも容易なのだ。

ところが、そういう機会をほとんど持とうとしなかったし、英語で話す努力もしていない。安倍外交の成功にあってブエノスアイレスでのIOC総会や米国議会での英語スピーチでの成功はかなり意味を持っていただけに意識が低すぎる。

また、地方振興を強調するが、隙間狙い的に活路をめざせばチャンスがあるという「里山資本主義」だけだ。たしかに、個々の地域、とくに中山間地域などで少し気の利いたコンサルタントでも雇えば、成功する。しかし、全体のパイは大きくないので、地方の衰退という国家全体の課題への回答にはならないし、だからこそ、地域創生相になっても期待に応えられなかったのである。

最近もテレビ番組で杉村太蔵氏と議論して「100年前のスペイン風邪の時と同じようにグローバル経済から脱却すべき。そして東京一極集中からの脱却」と謎の発言をして話題になった。ブロック経済に流れてそれが世界恐慌につながっていったのだが、それを再現したいのか。杉村氏には「石破さんの支持が上がらないのはマクロ経済政策。ブログ見たけどどっかの夕刊コラムみたい。全然政策のこと書いてない」と喝破される始末だった。

月刊「正論」の石破・岸田インタビューの内容紹介(鍵括弧内は両氏の発言の趣旨をまとめたもの。括弧内は私のコメント)

総裁出馬については、石破は明言せず。「安倍首相の後ろから弾を打っているのでないか」→「自民党では言論統制しないから異論があっても当然である」

(石破氏が選挙の時などに集中して総理批判を野党などと歩調を合わせてしていることが「憲法では産経と自分が一番近い」(石破氏は首相が第9条第2項を維持し第3項を付け加えるのみでいいと方向転換したことを批判している。それ例外にも、石破氏が憲法解釈で超タカ派であることを左派・リベラル系メディアは批判したいのが不思議)

「習近平国賓招聘を取り消すのは礼儀に反する。外交で好き嫌いは行ってられない。中国はもともとそういう国だ」
(私はこの点は石破氏に賛成だ。しかし、もともとそうだというので片付けるのはおかしい。国賓招待は習近平路線が明らかになってから行われているので、香港だけを理由に取り消すのはおかしいというところに求めるべき)

「辺野古以外の考え方もそれがあれば追及すべき」
(聞き手のそれで遅れるのではという追及には答えず。ちなみに私は辺野古の陸上説だ)

「二階氏とはもともと親しい。地方に対する愛情が強い」
(間違いでない。ただし、地方への愛情だけではダメだから石破氏は地方創生相として失敗)

岸田氏は総裁選出馬を明言。
「情熱が足りないのではなく、まず、人の意見を聞くというスタイルなだけだ」
(人の意見を聞くのはいいが、現時点で自分が考えていることがあるならもっと主張すべきだといわれているのでないのか。人の意見を聞くのは自分の考え方を作る過程での話だろう)

「誰が総理でも憲法改正をするべきときだ」
「自民党のなかでの議論はいろんな方法があるだろうが、石破氏のようにこっちの方法がいいといってこれまでの議論を元に戻すべきでない」
(憲法についての考え方はリベラル寄りの立場の宏池会なりに練れていると思う)

「国賓招聘は国としてしたものだが、党として意見をいうのはあっていい」
(分かりにくいが、中国にいうべきことはいうべきだが、隣国としてアメリカとは立場が違うという宏池会的な伝統も保持すると言うことか?一般論としては分かるが具体性に乏しい印象はある)

「見かけしゃべり方外見より中身で勝負したい」
(その中身が微温的で魅力に乏しいと言うことが問題なのではないかと思うが)

「辺野古でほかの選択肢を模索して結局ほかにないとなってもいいのか?」(その通りだ。石破氏はそこを無視している)

女性副大統領のもとでは稲田氏らにもチャンス

Hanadaでは女性候補についても触れている。アメリカでは民主党の大統領選候補者が確定的なジョー・バイデン前副大統領は、副大統領候補に女性を指名することを声明している。バイデン氏が大統領に就任するとしたらその時点で78歳で、任期を全うできるかもわからないし、当選しても4年後の立候補はない可能性が高い。となると、女性副大統領がそのまま後継候補の最有力となる。

稲田氏(自民党サイト)

稲田朋美氏は、保守のチャンピオンとして安倍首相のあとを次ぐホープとみられたが、防衛相としてやや不振だった。その後、女性問題などでリベラル旋回をしているとして歓迎する人もおれば戸惑う人もいる。

ただ、稲田氏が政権を狙うなら、支持を狭い意味での保守派以外にも支持を拡げる必要があることは明らかなのだから、保守派としての基本路線を守りつつ女性や子供の問題などで男社会のしがらみにとらわれない大胆な政策を打ち出していくことは路線として正しい選択だと思う。

野田氏は配偶者について説明すべきだ(ほかの男性候補で配偶者について十分に情報公開してない人がいるのもよくない)。小渕氏は自立した政治家としての覚悟が必要だ。