飲食業の苦況が続いています。
この状況を改善するため、システム会社等による、アプリやIoTを駆使した提案も数多く見られます。これらの大半は、レジや注文・会計業務など「間接業務」を効率化し、「本業に専念しましょう」といったものです。
では、「本業」の生産性を向上させるにはどうすれば良いのか。答えているシステム会社は多くありません。汎用性が低くオーダーメイドになるため、提案が難しいのです。
「本業」のどこに問題があるのか。「本業」の生産性向上策はなにか。考察してみたいと思います。
FLコストとは
FLコストをご存知でしょうか。
「飲食業 生産性向上」で検索すると、「FLコスト」と言う言葉を解説したサイトが、数多くヒットします(そしてページの最後で、上述のようなシステム営業へ誘導されます)。
FLコストは、F=food(材料費)とL=Labor(人件費)を合計したものです。このFLコストが、売上に占める比率を「FL比率」といいます。適正値は60%程度。内訳は食材と人件費で半々、つまりF(材料費)30%、L(人件費)30%となっています。
このFLコストとFL比率。指標としては使いやすいのですが、問題把握や分析には不十分です。理由は、L(人件費)に2つの要素が混在しているためです。
飲食業は製造業である
製造業では、工場の作業者の給料、つまりL(人件費)は、売上原価として算入されます。人件費として計上されるのは、営業や総務などスタッフ部門の人件費のみです。つまり、売上に直結する人の給料は「売上原価」、それ以外が「人件費」、として分離されているのです。
一方、飲食業の多くは人件費に、調理担当者と、ホールなど調理担当者以外の費用が、混在してしまっています。そのため、生産性向上策も、漠然としたものになりがちです。
飲食業も「モノづくり」を行っている以上、製造業的に考えた方が、対策しやすくなります。
そこで「調理」と「ホール」(調理以外の作業者)の二つに分解し、生産性向上策を考えてみましょう。
「ホール」の生産性向上
多くの店では「ホール」作業者は、パートやアルバイトが大半を占めています(*1)。つまり「ホール」は、売上と連動して増減する「変動費」といえます。
「ホール」の人件費が、売上の増減と連動していない、繁閑に関わらず一定である、などの場合は、シフトや人数の見直しを行う必要があります。月(日・時間)別の売上と「ホール」人件費の比率を計算し、表やグラフ化すると、管理しやすいでしょう。
「調理」の生産性向上
「調理」は品質と直結するため、費用削減は慎重に行う必要があります。料理の付加価値向上による売上増を目指した方が良いでしょう。
そのための施策は標準化とマニュアル化です。定型業務については、標準化・マニュアル化を徹底します。調理技術の教育は、「背中を見て覚えろ」ではなく、積極的なOJT教育(*2)を実施すべきです。調理スタッフの技術が向上すれば、材料の廃棄コストの削減も期待できるはずです。
問題把握を最初に
「調理」「ホール」に大きな問題が無いにも関わらず、生産性が低い。そう判明した段階ではじめて「本業」以外の「間接業務」対策に踏み込みます。上述のIoTなどをつかったシステム導入も有効でしょう。
大事なのは、最初に「なにが問題なのか」を把握してから、施策を検討することです。
2018年の日本政策金融公庫の集計によると、10人~19人規模の飲食店のFL比率は「70%」。一般的に、FL比率が65%を超えると、危険水域と言われています。コロナ以前から厳しかった、小規模飲食店経営の環境は、ますます悪化しています。効果の高い施策を実施し、なんとかこのコロナ禍を乗り切っていただきたいと思います。
[備考]
*1 給仕業務重視の飲食店を除く
*2 OJT:on the job trainingの略。実務を体験させながら仕事を覚えさせる教育手法。