10年前の「コンテンツ政策転換を」

中村 伊知哉

10年前、官邸に呼ばれ、知財本部コンテンツ委員会の座長を頼まれた際、それまでの国内・産業重視を海外・インフラ重視に転換することを認めてくれるなら引き受けると申し上げました。その時に使用したペーパーを見直しています。ずいぶん鼻息が荒かった。

「コンテンツ政策転換を」提案。「プロが国内のマスメディア向けに東京で作るエンタメ作品を流通させる」政策を、「みんなが世界の全メディア向けに地域で作る産業・教育・医療・行政を含む全情報を生産させる」政策へ。スマート化の入口で、「みんなのコンテンツ政策」を目指しました。

具体的には、
国内映像産業の活性化 →国際市場の開拓
放送番組二次利用の促進→新メディアの開発・整備
高度クリエイターの育成→創造力・表現力の向上支援
政策はその後おおむね、この方向に動き始めました。

しかし10年関わって、座長も降り、振り返るに、道半ば感が強い。
「これから」のうち、「国際市場の開拓」は成果が現れていますが、「新メディアの開発・整備」はほぼGAFAのお世話になりました。
「創造力・表現力の向上支援」はようやく学校ICT化が始まるところです。

「3の視点」政策、資金、規制。
1.コンテンツ政策の転換を
2.財政支出より民間資金の活用を
3.規制緩和、外交等の資源活用を

コンテンツ売上増は政策目標ではなくなり、国際共同制作やファンド(クールジャパン機構)設立、通信・放送制度改革、海賊版対策強化などの対策が取られました。文化省は進んでいませんが、官邸・内閣主導でタテ割り打破は進んでいます。及第点でしょう。

「10の目標」。
1.全番組がテレビ、PC、ケータイでアクセスできる。
2.世界の国々で日本の全コンテンツがアクセスできる。
3.紙、CD、DVDを使わなくてすむ。
など、全項目に数値目標を入れて提案しました。
恐れ知らずでした。

1.全番組がテレビ、PC、ケータイでアクセスできる。
はもたもたしていますが、
2.世界の国々で日本の全コンテンツがアクセスできる。
4.どこにいても緊急情報に触れることができる。
5.買い物は全てケータイでできる。
などは結構進みました。

9.全国民がアニメ制作と作曲ができる。2015年には3割の小学生がアニメ制作・作曲ができるようにする。
はようやくデジタル教科書が制度化され、プログラミングが必修化されるところです。子供PC一人一台もようやく実現。
10年を要しました。

「10の施策」。
これも道半ばです。
4.国際共同政策、5.海賊版対策、6.デジタル教科書、10.縦割り除去のように施策が進められているものもあります。
一方、1.IP放送、2.NTT・NHK規制緩和などは不十分。8.ハードからソフトへの資金還流は進んでいません。

コンテンツはこの10年でライブやSNSとの融合による2.5次元展開と海外展開とが基調になる一方、Netflixはじめ米国プラットフォーマーが強大化し、さらに5GやAIなど新技術の普及期にも入ります。

そして、コロナの影響で、コンテンツの制作も利用も環境が大きく変化しています。これはコロナ後も続くことになります。
改めて、総合政策を見直す時期かと存じます。
誰か鼻息の洗い人がやってくれませんかね。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2020年8月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。