英国へのスペインからの入国者、自主隔離決定で同国経済に致命的

白石 和幸

英国政府が先月25日夕方から夜にかけてスペインからの英国への入国者に対し14日間の隔離を決定した。スペイン政府にとってこの決定はまったくの不意打ちだった。

英外相ドニミク・ラーブによると、英国政府は24日金曜にスペインのコロナに関する最終の情報を集めたという。翌日25日土曜午後にそれを分析し、夕方から夜にかけてスペインからの英国への入国者に対して自主隔離を決定したということだ。即ち、4時間程度の検討でこの決定を下したというわけである。

実は、この決定を下した25日に英運輸相グラント・シャップスが休暇でスペインに到着したタイミングというのが、この決定がいかに唐突であったかということを示している。シャップスも英国に戻ると2週間の自主隔離をせねばならなくなった。同様に、ポール・スクリー保守党議員もカナリア諸島のランサローテ島で休暇を愉しんでいたところであった。彼にも自主隔離が必要となった。

この決定が影響して25日の英国でのスペイン旅行へのキャンセルは67%まで上昇したそうだ。

ランサローテ島(EdgarJa/flickr)

スペイン政府は26日から英国政府に対しこの撤回を要求した。特に、カナリア諸島やバレアレス諸島は感染率において他のスペイン地域よりも遥かに少ないというのを裏付けにして交渉に入った。27日の時点でカナリア諸島は10万人につき6.8人の感染者、バレアレス諸島は8.8人の感染者。14.5人の英国での感染者よりも遥かに少ない。英国にいるよりもこの2つの諸島にいる方が安全だということになる。(参照:eldiario.es

ところが、英国政府はむしろカタルーニャでの感染率の高さに視点を置きすぎたようである。また、今回の決定を前に、スペイン政府の外交圧力のなさを脆に披露した感じだ。サンチェス首相と仏のマクロン大統領やドイツのメルケル首相とはある程度親密な関係を維持している。だからフランスの場合はスペインとの国境を封鎖する可能性を当初表明していたが最終的にはカタルーニャへの訪問を控えるようにというだけで終わっている。またスペインで訪問を控えるようにと地域を限定しただけであった。

ところが、英国ボリス・ジョンソン首相とはサンチェス首相はこれまで接触がない。メイ前首相であればこのような極端な決定にまでは至っていないと思われるが、ボリスは軽率に決定する場合が良くある。

ジョンソン、サンチェス呂首相(英首相府、SPD各公式flickr)

カナリア諸島は年間で1300万人の外国からの観光客の中で英国人は500万人を占めている。また、バレアレス諸島も昨年は英国から370万人の訪問を受けた。

現時点でもすでに60万人の英国人がスペインで休暇中にある。ということで、彼らも帰国すれば隔離が待っている。昨年だとこの時期200万人の英国人の訪問を受けていた。(参照:elconfidencial.comelpais.com

昨年の外国からのスペインへの観光客は8300万人。その内の1800万人が英国からの訪問者であった。訪問者全体の22%に匹敵するのが英国人である。それにフランスとドイツからそれぞれ1150万人の訪問客でスペイン観光の3本柱となっている。

今回の英国の決定はカナリア諸島の経済にとって深刻である。同諸島のGDPの35%が観光事業に依存しているからである。しかも、昨年からカナリア諸島にフライトをもっていた航空会社トーマスクック、ベルリン、ジャマニア、ラウダ、スモール・プラネット、モナークの6社が倒産して観光客のカナリア諸島への訪問の減少が危ぶまれた。

ドイツの最大手旅行代理店トゥイは今回の英国政府の決定を受けて英国からスペインへのフライトを8月9日までの運休を決定している。

バレンシア州でも英国人の訪問が多いリゾート地ベニドルムは同地の観光客の40%がこれまで英国人で占めていた。昨年は73万人の英国人が同地で宿泊している。バレンシア州のホテル観光企業連合のトニー・マヨール会長は「例年とは比べものにはならないが、予約も増えてこれから先は良い感触を掴めていた。9月から10月には正常に戻ると期待していた」と述べて、今回の英国政府の決定は大ナタで一撃を喰らったような気持ちだという。

これから営業を再開しようと予定していたホテルでもこのまま年末まで閉店を継続するホテルも出てくるはずだ。(参照:elpais.com

英国政府はカナリア諸島とバレアレス諸島については隔離義務を撤回するはずだと噂されているが2週間経過したが変化はない。