本日は以前にも扱ったMMTの主要論客でオーストラリアの経済学者のビル・ミッチェル氏の論文を扱います。
Investing in a Job Guarantee for Australia
MMTの政策的応用の最も重要な政策は Job Guarantee (就業保障)であると言っても過言ではないでしょう。
完全雇用達成への直接的政策で、他の政策で景気対策をして間接的に雇用を増やすのよりも効率的かつ効果的に失業を減らせます。また就業保障プログラムは完全雇用が達成されると政府支出はそれ以上増やす必要はなく、過大な政府支出によりインフレを作り出す危険性が少ないと考えられます。
日本におけるMMTの応用においては政治の左右の立場関係なく「消費税減税」が圧倒的に多いのですが、氷河期世代の安定的雇用確保と資産形成のためにも氷河期世代を対象とした就業保障プログラムの実現に向けた政治勢力の結集が望まれます。
英文の読解難易度と解説
表紙、参考文献も含めて全18ページとなかなかのボリュームです。経済学部・院の学生でも英語の論文を短時間でスムーズに読める人は少ないので、1週間くらいかけてじっくり読むのがよいでしょう。経済理論としては特別なことはなく、オーストラリにおける失業のコスト、就業保障プログラムを実施した場合の財政負担などの試算が主な内容です。
労働経済関係の単語が出てきますが、それほど特殊なコンセプトは取り扱っていません。MMT関連の本を読んで就業保障プログラムについて知っている読者でも具体的な経済(GDP)における試算結果とその計算方法を知るのは参考になります。
オーストラリアの事情が日本のそれとは随分違う点もあるので、やはり日本でも同様の試算をしてほしいものです。コロナ禍の影響で経済が激しく落ち込む中、このような失業にフォーカスした論文は政治的にも重要です。就業保障プログラムを実施するという観点以外にも、コロナ不況による雇用喪失の全体像を把握するという意味でも日本における同様の研究・試算が行われることが望まれます。