「会計不正」に強い企業であることを示すための工夫とは①

bBear/写真AC

8月10日の日経新聞1面に「国内会計不正 5年で3倍-粉飾や資産流用・統治実効性に課題」なる見出し記事が掲載されていました。日本公認会計士協会の調査によると、2020年3月期は前年から比べて不正会計が7割増し、5年前と比べると3倍もの会計不正事件が発覚した、というもの(おそらく会計監査人が設置された上場会社の調査結果でしょう)。

2021年3月期は、新型コロナウイルス感染症の影響により、さらに会計不正事案は増えることが予想されます。2200億円もの架空預金の存在が判明し、ドイツ最大の会計不正事件に発展しそなワイヤーカード社でも、昨年1月の内部告発を契機にフィナンシャルタイムズが報じたニュースに対しては「全くのナンセンスな報道」と平然と構えていました(その後、株価も回復しました)。日本企業も「会計不正など全く関係ない」と考えておられる上場会社も多いと思いますが、今後、会計不正の疑惑などが報じられる可能性が皆無とは言い切れません。

では、その自信を「見える化」してみてはいかがでしょうか。おそらく機関投資家の皆様にも、御社の「うちは会計不正とは関係ない」との宣言を形で示す姿勢に安心してもらえるはずです。そんなに費用を要することではありませんので、中小規模の上場会社でもヤル気次第で実践できるはずです。

会計不正とは無縁、との自信を「見える化」する手法として、私は御社の内部通報制度の規定を改訂して、内部通報の窓口に御社の会計監査人(監査法人)を加えることをお勧めします。現行の公益通報者保護法では、会計監査人への公益通報は「労務提供先」への通報には該当せず、「被害拡大の防止のために必要とされる第三者」への通報に該当します。つまり、通報者は通報事実の「真実相当性」を証明することができなければ(労働契約法上)保護されません(消費者庁の公式見解では、株主や会計監査人への通報は、いわゆる「3条3号通報」と解釈されています)。

しかし、会社が内部通報の窓口として会計監査人を追加していれば、通報者は「会計不正」の確証となる資料を持参していなくても「3条1号通報」として保護の対象となります(公益通報者保護法2条1項本文参照)。つまり通報者は「誤謬」なのか「不正」なのかわからないけど、ともかく不適切な会計処理が行われた、もしくはこれから会計処理が行われる可能性が高い、と思えば、当該事実を会計監査人に伝えることで公益通報者として保護の対象となります。従業員による通報のハードルを下げることは、まさに経営者の「会計不正根絶」の自信を示すものと言えます。

したがって、対外的に「当社は会計不正とは無縁であります」と宣言して機関投資家に信用してもらうためには、会計監査人と協議のうえで、会計監査人を内部通報の窓口として追加すること(「労務提供先等」の「等」に含めること)がひとつの工夫となります。ただし、通報事実については秘密を守ることが必要となりますので、通報後の調査体制についても、どこまで会計監査人が主体的に関与すべきなのか、あらかじめ協議をしておく必要があると考えます。

まだまだ「会計不正に強い企業であること」を機関投資家に示すための工夫はほかにもありますが、また別の機会に述べてみたいと思います。


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年8月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。