連載⑭ コロナ第2波、死亡者と「実効感染者」から見える世界の実態

仁井田 浩二

日本のコロナ第2波の現状と同じような傾向を示す、イスラエル、オーストラリア、米国について、新たに導入した死亡者数と連動する「実効感染者」の動向という観点からモンテカルロシミュテーションを用い比較、分析しました。

1.現状

4か国の新規陽性者の日毎変化を図1から図4に示します。赤線が陽性者のデータ、黒線がシミュレーションの結果です。紫線の「実効感染者」が今回導入した指標で後ほど説明します。この作業を始めたとき、図1の日本と図2のイスラエルのデータの類似性が強烈だったので、連載⑪で速報し、連載⑫で解析しました。本日はその続きで、オーストラリアと米国を加えました。

イスラエルと米国はピークアウトの兆候がかなり明確なので、それに合わせてフィットしています。日本とオーストラリアはまだ明確ではありませんが、暫定で両国とも7月26日にピークアウトを設定しています。

イスラエルとオーストラリアの共通点は、強烈なロックダウン政策を取り第1波を抑え込んだのですが、解除後、再び陽性者が急増してきたことです。特にオーストラリアでは最近2度目のロックダウンを行っています。

米国は、第1波と第2波の間の谷がはっきりしておらず、日本、イスラエル、オーストラリアとはだいぶ様相が違います。米国は、大国で各州での感染拡大に時間のずれがあり、谷が埋まってきているためと思われます。しかし、最近の陽性者の増大は他の3国と共通です。また、世界全体の傾向とも相似性があり、全世界の先行事例になっているようにみえます。

2.第2波の特徴

日本の第2波の特徴は、陽性者が増えても死亡者が連動して増えないことです。この関係が他の3国でどうなっているか検証します。

陽性者と死亡者を同時に表示するのに対数表示を使います。図5から図8に4か国の陽性者(赤線)、死亡者(青線)のデータ、シミュレーションの陽性者と死亡者の結果(黒線)を対数表示で示します。紫線は今回導入した「実効感染者」です。

モンテカルロシミュレーションでは、死亡率(陽性者のうち死亡に至る割合)を与えることによって、陽性者の数から2週間の遅延で死亡者が確率論的に求められます。日本の場合、6月の初旬まで死亡率を年齢平均で8.5%として死亡者数をフィットしています。ところが、7月に入り陽性者が増えてきた後は、この死亡率では全く死亡者データを再現しません。

シミュレーションでは、この死亡率を時間とともに変化させデータをフィットさせる方法もありますが、ここでは連載⑬で行ったように「弱毒種」導入します。「従来種」比べて、感染力が約2倍、死亡率が20分の1の0.43%という「弱毒種」を5月20日から導入して、陽性者と死亡者のデータを同時に再現するようにしました。

図5から図8の緑線が「従来種」、橙色線が「弱毒種」です。これはウイルスの「弱毒化」を模擬したものではなく、仮想「弱毒種」を想定して、第2波の感染者の上昇とそれと連動しない死亡者の動向を矛盾なく、また簡単に説明するためのシミュレーション上のシナリオです。「従来種」が第1波、「弱毒種」が第2波を表すと思ってください。

同じ方法で、他の3国も解析しました。イスラエルが図6、オーストラリアが図7、米国が図8です。それぞれの国の第1波の死亡率、第2波の死亡率、第2波の第1波からの比を表1にまとめました。

表1 第1波死亡率、第2波死亡率
第1波死亡率(%) 第2波死亡率(%) 2波/1波の比
日本 8.5 0.43 0.05
イスラエル 3.0 0.75 0.25
オーストラリア 4.0 2.8 0.7
米国 15.0 1.2 0.08

日本と米国は第1波で死亡率が8.5%と15%ですが、イスラエルとオーストラリアは3%と4%で、そもそも日本、米国に比べて小さい値です。これはおそらくイスラエル、オーストラリア両国では、当初からPCR検査が徹底していたので、この差が出ているのだろう思われます。

第1波から第2波への死亡率の変化を見ると、日本、米国では大きく、イスラエル、オーストラリアではあまり大きくありません。即ち、日本と米国では、第2波の陽性者の増加が死亡者の増加に連動していませんが、イスラエルとオーストラリアでは、第2波でも陽性者の増加が死者の増加とある程度連動していることが特徴です。

3.死亡者数から導出する「実効感染者」

最近の陽性者急増の連日の報道を見ると、死亡者はほとんど増えていないにもかかわらず、私たちはどうしても、第1波の時の惨状、武漢の病院を埋め尽くす感染者、イタリアの病院の疲弊した医療関係者、アメリカの施設で袋に入れられた死体などを思い出し、これからこのような惨状が訪れるのではないかと不安になります。

この不安の原因は、現在の急増した陽性者が第1波の死亡率の割合で2週間後に死亡すると推測するからです。そこで逆に、第1波の死亡率で現在の死亡者数を導出するには、現在の陽性者のうち何人が実際の感染者としてカウントされるべきかを考えます。

その数を「実効感染者」数と呼びます。シミュレーションでは簡単に求められます。第2波「弱毒種」の死亡率を、第1波「従来種」の死亡率の何倍になるかで定義しているので、例えば日本の場合0.05倍ですので、

実効感染者(計算) = 「在来種」の陽性者数 + 「弱毒種」の陽性者数 × 0.05

となります。この数が第1波の死亡率を基準とした感染者数で、この数の増減が実体を把握するめやすになります。

この「実効感染者」数を日本、イスラエル、オーストラリア、米国について求め、図1から図8までのグラフに紫線で示しています。図1の日本の場合では、実際の第2波の陽性者数に比べて極めて小さい数になります。

「実効感染者」の推移をよりリアルに表現するために、実際の陽性者のデータを

実効感染者(データ)= 陽性者データ × 実効感染者(計算)/ 全陽性者数(計算)

でスケールして、各国ごと、図9から図12に示しました。これらの図が、第1波の死亡率を基準として見たときの現在の感染者数です。

4.「実効感染者」から見える新しい第2波の実態

図1から図4の4カ国の陽性者のグラフでは、第2波の振舞いはほぼ同等に見えますが、図9から図12の「実効感染者」のグラフでは、大きなふたつの傾向に分かれます。

日本と米国は、第2波の「実効感染者」は第1波に比べて10分の1程度に減少していて、現在、危機的状態にはないように見えます。一方、イスラエルとオーストラリアの第2波の「実効感染者」は、第1波と同程度の波です。即ち死亡者も感染者と連動して上昇している状況なので緊張が高まっています。イスラエルはかろうじてピークアウトしていますが、オーストラリアはその兆しは小さく、再度ロックダウンを決行したというのも頷けます。

ECMOや人工呼吸器の装着人数も重要な指標です。ただし、連載⑬で示したように、これらは死亡者数の変化に同期していて先行指標とはなり得ません。死亡者の2週間前の先行指標となる「実効感染者」、具体的に例えば新規「有症陽性者」等の指標の整備が必要です。

5.コロナ第2波の短期予報

連載⑬の短期予報から、「在来種」と「弱毒種」の設定を変更、ピークアウトの日を6日遅らせ7月26日にして、7月29日の厚生省のデータをフィットしました。8月5日は予測値と厚生省データ、それと8月31日の予測です。

表2 7月29日現在のベンチマーク
厚労省データ シミュレーション結果
感染者 死亡者 感染者 死亡者
60歳以上 6,975 940 8,238 941
60歳以下 24,473 52 22,792 48
31,448 992 31,030 989

 

表3 8月5日の予測とデータ
厚労省データ シミュレーション予測値
感染者 死亡者 感染者 死亡者
60歳以上 8,084 951 10,937 959
60歳以下 32,496 55 29,043 49
40,580 1006 39,980 1008

 

表4 8月の予測
8月31日までの総数
患者数 死亡者
60歳以上 19,693 1,055
60歳以下 50,568 53
70,261 1,108