若者に人気の動画アプリTikTokが今世界から締め出されようとしています。TikTokを私は使ったことありませんが、2年程前から小学生や10代の若者にものすごい人気だということは聞いていました。
ではなぜ、TikTok排除の動きが広がっているのかというと、TikTokは北京にあるByteDance社が開発運営しているモバイル向けアプリでずばり中国の会社だからです。とはいえ、何でもかんでも中国と聞いたら差別的な扱いをするというのは、これはもちろん駄目ですが、この件で国際社会や中国というのを知るには非常にいいケースだと思います。
順を追って見ていきますと、TikTokは今年1月の段階で世界で8億人、そのうち日本でも950万人を超えるユーザーがいます。そして今年上半期、6月までの新たなアプリのダウンロード数は6億2600万回で世界のダウンロードランキングで首位になっていますので、さらにユーザーが増えているはずです。
一方このTikTokについては、すでにインドでは使用が禁止されて、オーストラリアでも使用禁止を検討中、EUでは調査が行われています。また日本でも自民党が政府に禁止を検討するよう申し入れました。そして、8月6日にアメリカの上院は、政府職員の携帯電話へのダウンロードを禁止とする法案を可決しました。さらに同じ6日、トランプ大統領がTikTokの運営会社と、45日後からアメリカの企業や国民が取引をすることを禁止するという大統領令に署名しました。45日ということは9月20日で私の誕生日なんですが….それはどうでもいいとして、この日からTikTokは使えなくなるかもしれないということで、TikTokのアメリカ事業を、今、Microsoft社やTwitter社が買収交渉をしているそうですが、仮に不成立になれば本当に使えなくなるわけです。
なぜ世界はTikTokを締め出しているのか、その理由は安全保障上の問題です。例えばアメリカには対米外国投資委員会(CFIUS)という安全保障上の観点で外国企業の対米投資を審査する機関が、大統領に対して個人情報流出の懸念を勧告しました。さらに、アメリカの大統領には、国際緊急経済権限法という重大な脅威に対し、外国の組織もしくは外国人の資産没収、外国為替取引・通貨及び有価証券の輸出入の規制・禁止などができる権限があります。
では今度はなぜTikTokが安保に関わりがあるのかといえば、それは中国に「インターネットの安全の保障、インターネット空間における国家の安全と社会の公益の維持、公民、法人、その他の組織の合法的な権益の保護」などを目的に制定されたインターネット安全法があり、中国政府が中国企業に情報を出せと言ったら出さざるを得ないからです。それでも政府の機密情報や軍、自衛隊の情報って言うのであれば、なんとなくわかるような気がしますが、TikTokの場合は個人での利用が多いわけですよね。もちろん個人の情報を中国政府に見られたり、監視されるというのは嫌なことです。しかし、それだけにとどまらず、個人情報から、例えば政府の要人や自衛官などの身内の人が割り出されて、交友関係を調べて情報を得るということなども考えられるわけです。
そうは言ってもTikTokを使っている10代では意味がないじゃないかというのは大間違いです。例えば誘拐です。娘を誘拐したから、開放と引き換えに情報を出せということだってありえます。人の弱みを握って情報収集するのはスパイの常套手段です。
TikTokを運営しているバイトダンスは「中国政府から情報を出せと求められたことはない、求められても出さない」と言っていますが、先ほども言ったように法律上は出さざるを得ないわけです。ちなみに昨日は香港についてお伝えしましたが、実はバイトダンスは香港から7月に撤退を決めています。それは香港国家安全維持法ができたからです。やはり情報を出せと言われたら香港では情報を出さざるを得なくなったからですね。
すでに中国によるイスラム教徒のウイグル人の扱いを批判する動画を投稿したアメリカの17歳の少女のTikTokの動画が削除され、アカウントが停止されるという事態も起きました。TikTok側はその後謝罪をしていますが、いずれにしても中国政府、中国共産党の検閲や言いなりになっているのは、かなり明らかなようです。
これまでは自分の家族構成や親戚に誰がいるかなどを外国に知られることはありませんでした。しかし、社会が高度な情報化社会になった現在では容易に調べることができます。
ましてやある国がその国を危機に陥れるということもできるわけで、ただ便利、ただ楽しいでは済まされない時代です。
編集部より:この記事は、前横浜市長、元衆議院議員の中田宏氏の公式ブログ 2020年8月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。