プロフェッショナリズムの貫徹

高度に専門的な知見を要求される分野においては、その専門的知見をもつものでないと事業運営ができず、従って組織の経営もできない。ならば、素直に自然に考えれば、経営者は優れた専門家としての実績をもつものから選ばれるべきだということになる。

実際、例えば、法律、会計、税務、医療、研究開発、コンサルティングなどのプロフェッショナル業とされる分野では、組織自体がプロフェッショナルで構成されていて、その長も優れたプロフェッショナルから選任されている。しかし、他方で、いかにプロフェッショナル業といえども、その特定分野の専門的能力だけでは経営できないのも事実である。

大学の経営では、頂点に教員組織が置かれているわけだが、学生数の確保、教員の責務における教育と研究の適切な均衡の問題、共同研究や委託研究を通じた産業界との連携による外部資金導入の問題など、多くの困難な経営課題に直面するなかで、いかに研究者として優れていても、経営者として適切に対処できるとは限らない。同じことは病院についてもいえる。有能な医師は、必ずしも有能な病院経営者ではない。

経営ということ自体にも、合理性の追求のための専門性と固有の能力がある。経営の合理性の追求と、プロフェッショナルとしての技術的な専門性の追求、即ちプロフェッショナリズムの貫徹との間には、適切な協働と牽制が機能しなくてはならない。そうでなければ、プロフェッショナル事業はなりたたない。

ただし、プロフェッショナル業である限り、その技術的な専門性の優越は動かし得ない。事業の経済的諸条件は、それが整わない限りプロフェッショナリズムを貫徹すること自体が不可能なのだから、前提として充足されなければならない制約だが、前提が整っていても、プロフェッショナリズムの倫理的側面も含めた社会的価値の創造がなされていないのならば、事業としての真の価値は実現できないからである。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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