自粛で老化が進む医療危機

東洋経済オンラインに「コロナ禍で『老化が進む人』が激増しかねない訳」というタイトルの記事があった。このブログでも紹介したことがあるが、自分の体験としてテレワークや車による通勤が3か月続いたころから、脚力の低下を意識するようになった。

外科手術のあとでも、寝たきり期間が長いと、運動機能は一気に低下する。記事には運動機能だけでなく、認知機能も低下する危険性が指摘されていた。一人でいると認知機能が低下するのはよく知られているし、私の認知機能も低下しつつあるかもしれない。

私は、脚力の低下を自覚したので、7月の終わりに休暇を取って、ひととできるかぎり長時間の水泳とウオーキングをしたことで、空腹時血糖値は正常範囲に戻り、階段を降りるときにも転倒に対する不安感がなくなった。

少し運動をするかどうかで、運動能力の低下は随分異なってくる。記事によると、名古屋市緑区で要介護度の区分変更をした人が例年より増えたそうだ。この区の148名の高齢者(平均年齢82.7歳)の調査では、77%で外出頻度が宣言前より減り、48%が転倒不安が増え、36%がもの忘れが増えたとのことだ。医療機関への受診回避も起こっており、持病の悪化が懸念される。

「気力や体力が落ち、生活機能が低下した状態」をフレイルと呼ぶのだそうだが、コロナ感染症に対する懸念によって自粛生活が続けば、高齢者のフレイルが一気に悪化し、要介護人口数を押し上げる可能性が高くなってきている。自己体験からは、間違いなく、運動機能は低下する。コロナ鬱によって気力の低下も増えてくるだろう。

この6か月ほど、コロナ感染症に対する対応が議論され続けている。日本の感染拡大が爆発的にならない大きな要因は、高齢者の自粛にある。ほとんど目が向けられていないフレイルを含む、高齢者の持病悪化は、今後日本の医療、経済活動に大きな影響を与えてくる。残念ながら、政府レベルでこのような課題に取り組んでいる声は聞こえてこない。

大阪府堺市の573人の高齢者(平均年齢81.8歳)調査では、デイサービス利用を控えた257人と通った316人を比較すると、前者では転倒不安が増えた人が約6倍、認知機能低下が約11倍高くなっていた。これから、6か月、1年、2年と自粛要請を続ければ、そのあとの日本の医療・介護環境は大変なことになる。そして、医療経済も一気に破綻へと向かうリスクが高い。

医療の将来を見据えたプランニングが重要だと言ってきた私だが、今は、1-2年先の医療を予測した対策が重要だと言いたい。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2020年8月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。