日本の景気回復は緩慢となるか?

日本のGDP4-6月がマイナス7.8%(年率換算27.8%)に落ち込みました。冒頭からあまり文句を言いたくはないのですが、このGDPは年率換算で表記する意味は統計的にはほとんど意味を成しません。むしろ、不安を煽るだけです。

(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)

確かにアメリカマイナス32.9%、ユーロ圏マイナス40.3%、英国に至ってはマイナス58.9%と報じられており、比較する上で表記を揃えるという意味では構いません。ただ、年率換算ということは4-6月の状態が1年間続いた場合の数字でありますが、このようなパンデミックが1年間「安定的に続く」という前提は何処にもありません。勿論、悪くなる可能性もないとは言いませんが、一定の回復力を期待する向きが大きいわけです。とすればあり得もしない年率換算の数字だけが独り歩きするのはいただけないのです。

さて、本題はこの日本のGDPの落ち込みはどこまで回復できるだろうか、であります。

マイナス7.8%の内訳は消費がマイナス4.8%、外需が3.0%です。うち、個人消費はマイナス8.2%となっており、過去の消費税上げ後の落ち込みをはるかに凌駕する過去最悪となりました。思ったより強いと感じたのが設備投資のマイナス1.5%、および住宅投資のマイナス0.2%であります。これは企業側がコロナ禍は一時的なものと考えている節とコロナが変えた新しい消費や経済活動に対する投資増があったとみています。

住宅については低金利が続くため、ある程度の需要はあるはずです。本日発表されたカナダの7月度中古住宅の販売件数は前月比26%増でコロナ前を凌駕するどころか新記録となっています。金利が低いこともありますが、コロナで家の価値が見直された可能性があります。以前お伝えしたように韓国も不動産高騰が続きます。日本も人口こそ増えませんが、本来であれば住み替え需要が起きてもよいとみています。密になる高層マンションのエレベーターや仕事部屋がない集合住宅より戸建てにシフトするといった生活の変化はないとは言えないでしょう。

問題はサービス消費です。コロナの間は勿論、サービスに制限がありましたが、日本でそろそろサービスに関する新しい発想が生まれるかもしれない気がしています。2000年代後半、日本の未来が真っ暗になっていた頃、若者が公園飲みに走ったのを覚えていますでしょうか?コンビニでアルコールを買って公園で飲むのです。また、高アルコール飲料が増えているのは数百円で酔えるからというものですが、その背景はいかにお金を使わないで楽しむかという若者なりの工夫だったと思います。

日本はサービスが過剰になっており、そのために余計な費用を払い過ぎている気がしています。いわゆるお手軽モノといわれるものでスーパーの総菜からお手軽キャンプやBBQまである意味、サービスの盛り過ぎややり過ぎでそれに対して人々はお金を使わされているという気がします。北米では金のない若者はないなりの生活や遊び方を満喫しています。個人的にはサービス消費はコロナが背中を押して自分で楽しむスタイルが増えるとみています。これはサービス消費の戻りが遅いことにつながるかもしれません。

モノの消費については人に会わない、会食もなければ会社の集りもないとなればアパレルやアクセサリー系は厳しいと思います。これも海外との比較ですが、日本人の身だしなみは美しすぎると思います。おしゃれすぎです。個人的にはこれも回復しにくい消費の一つだとみています。一言で言えばサービスのオーバーシュートです。

7-9月のGDPがある程度戻すだろうことはよほどのことがない限り確実でありますが、私は戻り歩調は鈍いとみています。3四半期連続で落ち込んだそのきっかけは消費税増税でした。あれだけ対策をしたのに落ち込むという意味は日本で「消費の体力」が落ちているとしか思えないのです。「消費の体力」とは私の造語かもしれませんが、本来消費とは労働所得を得ている勤労者層が自分の稼いだお金を使うことでフローが起き、消費を繰り返す正しい経済の育み方であります。

ところが日本の場合、高齢者による支出に頼るところがあり、ストックの消費になりがちです。これは体力がいずれ限界に達するという意味であり、不健全であります。例えば政府が孫への教育支出に一定の免税枠を設定したり、消費の現場でも祖父母が孫にいろいろモノを買い与えるのはストックの切り崩し。同様に様々な相続税対策も全部ストックの経済と消費なのです。フローの回転が起きない理由は勤労者の生産性が上がらず、賃金が上昇していないこと、そして労働に対する刺激が生まれていないことが最大の懸念です。賃金が上がらないのは経営の効率が悪いともいえます。勤労者側にするともっと頑張ればもっと稼げるという一昔前の創業機会が狭まったこととそれでも立ち向かうガッツが欠落しているのでしょう。

外国からの消費支援(=訪日外国人)は当面期待できず、輸出は中韓勢に押され気味となれば中期的な日本の経済の回復度はU字でもないしL字でもなく、あえて言うなら「レ」型回復ではないかとみています。そもそも2019年夏のレベルに戻せるのかというレベルだとすればコロナは日本経済の構造的弱点を刺激したかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年8月18日の記事より転載させていただきました。