民主党大会、あちこちで話題を振りまいていますね。
まずは、視聴者数。中継した10局の合計をロイターとニールセン社が算出したところ、1日目は1,970万人と前回2016年と比較すると24%減少していました。2日目も1,920万人にとどまり、前回から22%減となります。4~6月期はコロナ禍の事情もあってCNNを始めケーブル局のニュース・チャンネルで視聴者数の増加が目立った割に、ミシェル・オバマ夫人やクリントン元大統領が登場する民主党大会は、振るいませんでした。
しかし、ミシェル夫人が党大会1日目のフィナーレを飾った後、ソーシャルネットワークで瞬く間にセンセーションを巻き起こしたのです。演説で、「トランプ氏は大統領にふさわしくない」と一刀両断したから?いえいえ、力強い言葉もさることながら視聴者が注目したのは、首元にさりげなく光った無言のメッセージでした。
こちらをご覧下さい。
そう、金のネックレスには「VOTE(投票して)」という文字がさりげなく、あしらわれていたのです。こちらは、カリフォルニア州ロサンゼルスに拠点を置くジャマイカ生まれの宝飾デザイナー、シャリ・カスバート氏のブランド”ByChari”の逸品。2018年の中間選挙に合わせ、デザインしたものなんですって。ミシェル夫人のスタイリストから党大会の約2週間前にカスタム・オーダーを受けたものの、党大会で身に着けるとは想定外だったようです。SNSでバズりにバズった結果、売上は急騰中なんですって。
気になるお値段は、ミシェル夫人用の特注品で315ドル也。ただし、ByChariのサイトでは既製品が価格は295ドル(約37,600円)で販売しております。
ミシェル夫人のネックレスもさることながら、SNSではこの方の登場も話題になりました。ジョン・ケーシック前オハイオ州知事です。2016年の大統領選で共和党予備選に出馬し、トランプ氏に敗北した苦い過去をもつ方ですよね。
ケーシック氏は、演説で「米国は分岐点に差し掛かっている」と述べた上で、有権者に「正しい選択」を求めました。トランプ氏に投票するなというメッセージですが、そもそも民主党寄りの方々が視聴しているはずなので、様子見姿勢にアピールするかは微妙と言わざるを得ません。
党員ではない人物が党大会で演説するなんて日本人にとっては衝撃的でしょうが、米国では珍しいことではないのですよ。過去には、ご覧の面々がライバルの党大会で登壇していました。
・2004年 民主党のゼル・ミラー上院議員(ジョージア州、当時)がブッシュ再選を支援するため共和党大会に出席
・2008年 当時民主党員だったジョン・リーバーマン上院議員(コネチカット州、当時)がマケイン候補を支援するため共和党大会に出席
・2016年 共和党員としてNY市長を11年務めたマイケル・ブルームバーグ氏が民主党大会でクリントン氏を支援するため民主党大会に出席
そもそもリーバーマン氏は民主党の中でも最右翼でマケイン氏と懇意だったほか、ブルームバーグ氏自身、2001年まで民主党員で選挙のために鞍替えするなど風見鶏的な側面を持ち合わせていました。そういう意味で、ケーシック氏のような共和党エスタブリッシュメントの参加はサプライズ要素を含んでいたものの、既に「過去の人」です。浮動票に影響を及ぼす可能性は、極めて低いと言えるでしょう。
むしろケーシック氏は、民主党のプログレッシブの若者達を敵に回しました。党大会での演説直前に、プログレッシブの星であるアレクサンドリア・オカシオ―コルテス下院議員を「過激派は報道で破格の扱いを受け、党の方向性を決めてしまう・・オカシオ―コルテス氏はメディアで過剰に評価されているが、彼女は党を代表するわけではなく、党員の1人に過ぎない。右でも左でも、それは同じだ」と発言したんですよ。オカシオ―コルテスがツイッターで反撃したのは、言うまでもありません。
そのオカシオ―コルテス氏も党大会に登壇しましたが、演説時間はわずか約90秒と、ケーシック氏の約4分に遠く及ばず。しかし、話題をさらうには十分でした。民主党の正式な大統領候補となるジョー・バイデン氏でなく、彼女が2016年の予備選でボランティアの選挙スタッフとして働いた、バーニー・サンダース上院議員への支持を表明したためです。
サンダース氏自身は予備選での敗北を受け入れてますが、党の規則上、予備選で一定の代議員数を獲得していれば、党大会で指名される権利を有するのですよ。オカシオ―コルテス氏の支持表明はこれに則っており、むしろ民主党の要請を受けたサンダース氏を称える象徴的な行動でした。
従って、オカシオ―コルテス氏が演説でバイデン氏の名前を一切出さなかったものの、彼女がバイデン氏の正式指名を反対しているわけでありません。しかし、放送局NBCはこれをニュースと受け止め、民主党が分裂したかのように報道してしまったのですよ。オカシオ―コルテス氏がすぐに抗議のツイッター砲を放った結果、NBCは報道のツイートを削除しましたが、確かに紛らわしいですよね。オカシオ―コルテス氏、2018年の中間選挙以降、色々話題に事欠かない方です。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2020年8月20日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。