自民党の岸田文雄政調会長は、安倍晋三首相の「意中の後継候補」といわれてきた。なにしろ激務で2年勤めるのすら難しいといわれる外相を5年間も務めて安倍外交を支えてきた。
憲法改正では、国民投票で賛同を得られるかが焦点になるが、安倍首相自身も含めて保守派の首相のもとで対決ムードで臨むより、リベラル色が感じられる岸田氏が「やはり第九条は改正するのが自然だ」というほうが確実に勝てそうだ。
ところが、なぜだと言いたいほど岸田氏への国民の支持は低調だ。岸田氏は最近のインタビューで、安倍政治を「分かりやすい説明」や「スピード感」が不足していると評したが、この点で岸田氏自身が、安倍首相より優れているとは思えない。
例えば、前法相の河井克行被告と、妻の参院議員、案里被告の選挙買収事件の発端は、自民党が参院広島選挙区で2議席獲得できる得票が見込めるのに、岸田派が「野党と1議席ずつでいい」と河井排除で理不尽に暗躍したためとされる。その意味で河井氏への同情もかなりある。
岸田氏は衆院広島1区選出の派閥領袖として、地元の混乱の経緯について説明すべきではないのか。
安倍内閣の政治は、満足すべきとはいわないが、官邸主導によって「スピード感」を確保してきた。岸田氏が現在以上にスピードを出すためには、コンセンサス重視という方向にはいかないと思うがどうするのかぜひ聞きたい。
「情熱が伝わっていないということは反省する」
「みなさんの話を聞いて、それを参考にして、改めるべきところは改める」
と月刊誌『正論』(9月号)のインタビューで語っていたが、やはり「首相になったら、こういう改革を断行する」という目玉を持たないと、国民の期待がわいてくるはずがない。田中角栄の列島改造に匹敵するくらい魅力的な看板が欲しい。
それなら、ほかには外交で不安がなく、経済についても見識がある首相候補はいないかといえば、いる。
まず、茂木敏充外相だろう。東京大学経済学部からハーバード大学、読売新聞記者、マッキンゼー勤務で、かつて著書『都会の不満 地方の不安』(中央公論社)を出して話題になった。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)などで外交交渉能力の高さも定評がある。出身派閥である竹下派から党内への広がりは不十分だが、岸田氏がもたついていると「期待の星」になっていくのでないかと思う。
河野太郎防衛相は「言うべきことを言う政治家」として人気があり、父親の河野洋平元外相の外交での軟弱ぶりとは好対照だ。ただ、外交の世界では相手をねじ伏せるような言動はリスクが高い。
また、信賞必罰というと聞こえがいいが、十分に吟味しない人事への拘泥が指摘される。一閣僚なら官邸が最後はブレーキをかけるからいいが、「一国のトップとして、大丈夫か」という心配を払拭する必要があると思う。
米大統領選で、民主党候補となるジョー・バイデン前副大統領は、副大統領候補に黒人女性のカマラ・ハリス上院議員を選んだ。ジャマイカ出身の経済学者という父と、インド出身の医学者の母(バラモン階級)を持ち、カリフォルニア州司法長官も務めるなど、知的エリート層に属し、黒人だが多様性を感じさせるので、「女オバマ」といわれてきた。
バイデン氏は当選しても就任時に78歳で、任期をまっとうできない可能性が二割ほどあり、再選立候補も難しいわけで、ハリス氏が「米国初の女性大統領」に近づいたといえる。そうなると、日本でも「女性の宰相候補」くらいはいてほしい。
稲田朋美幹事長代行 ハリス氏に重なるイメージ、と保守から「改革志向」強める
自民党の稲田朋美幹事長代行は、ハリス氏と同じ法律家(弁護士)であり、世襲政治家でもないあたりイメージを重ねやすい。保守派の論客としてデビューしたが、最近は政策通、社会派として幅が出てきた。新型コロナウイルス終息後の社会像を議論する議員連盟を結成するなど、岸田文雄政調会長らより大胆な「改革志向」を強め、二階俊博幹事長とも関係良好であるなど女性候補の中で一歩先行する。
最も堅実に重要ポストこなす高市早苗総務相
高市早苗総務相については、宰相候補としてこれまであまり名が出てないが、女性政治家の中で、重要ポストを最も堅実にこなしてきたことをもっと評価すべきだし、アメリカ議会での実務経験もありもっと注目されるべきだ。
野田聖子元総務相 中国南シナ海進出で「トンデモ発言」が惜しまれる
野田聖子元総務相は、過去に二度、総裁選出馬を推薦人が集まらずに断念したが、意欲は満々。ただ、南シナ海への中国の進出について「日本は直接関係ない」とトンデモ発言して批判を浴びた。また、配偶者について心配事もあり情報公開すべきでないか。
日本の主要政治家に最近、配偶者や家族について情報公開に消極的な人もいるが、国際常識に反する。安倍首相の昭恵夫人でも批判はされたがむしろ情報は過多なくらい公開している。
「親中派」の期待集めたが、いまは出番なし 小渕優子元経産相
小渕優子元経産相は2014年、政治資金規正法違反事件のために閣僚辞任したが、議員は辞職せず、みそぎは中途半端だ。安倍晋三首相と中国の関係が悪かった時期には、「親中派」の期待を集めたが、日中関係の改善と中国への国際的な風当たりの深刻化で、いま親中を看板に出番はあるまい。好感度は高いが元首相のジュニアを超えた迫力が欲しい。
小池百合子都知事 広報力は高いが実務面や経済活動への配慮はお粗末
東京都の小池百合子知事は、新型コロナ対策で広報能力の高さだけは示した。しかし医療体制など実務面での対応のお粗末さ、国と同じ基準での重症者数すら出さない唯我独尊ぶり、経済活動の過度の抑制など無策が際立った。ちょうど五輪問題で安倍首相との協力もうまくいっていたのだから、協力をアピールする方向を選べば、保守層への好感度も増しただろうに残念だ。
安倍晋三政権を、豊臣秀吉の天下に例えれば、麻生太郎副総理兼財務相、自民党の岸田文雄政調会長、二階俊博幹事長、石破茂元幹事長は「五大老」かその経験者となる。
一方で、「五奉行」筆頭の石田三成にあたるのが、菅義偉官房長官(無派閥)である。実務能力が高く、自民党幹部で数少ない庶民派で、「秋田出身で横浜選出」というのも大都市と地方が分かるという意味でバランスが良い。市会議員も経験している。
ただ、官房長官から首相への横滑りには反対だ。
第1に、モリカケ問題などでの説明不足の責任を引き継ぐ。安倍内閣秘密主義とはいわないが、守りの姿勢は菅長官が主導したものだ。
第2に、霞が関の人事権を8年間も握ってきたことからくる、息苦しさがある。「官僚の専門性尊重」と「政治の意向反映」との両立は難しいが、人事権者が適度の長さで交代することで風通しを良くすることが大事だ。人事権者がいずれ変わることで我慢できるのだ。
第3は、対外交渉での経験不足だ。経産相などで対外交渉を実地に経験することが不可欠だ。内閣改造で菅氏が重要経済閣僚に転じることことが上記の3つの問題を解決すると思う。
安倍首相はかつて、「細田派の新四天王」として稲田氏のほか、下村博文、松野博一の両元文科相、そして、残りの1人は「これからの頑張り次第」と言ったことがある。このうち稲田朋美幹事長代行はすでに取り上げた。残りは、下村、松野両氏に、現職の萩生田光一氏を加えて、いずれも文科相経験者だ。
下村氏は入試改革などに取り組んだが、先送りとなったのが残念だ。実現したら安倍内閣のレガシーになっていたと私は思う。
松野氏は、前川喜平文科事務次官による天下りあっせん問題で痛んだ同省の正常化に手腕を発揮した。松下政経塾出身で野党とのパイプにも定評がある。
萩生田氏は、入試改革や9月入学、教科書問題などで守旧派的という批判もあるが、剛腕への期待がどこで発揮されるのかお手並み拝見だ。
他派閥だが、安倍首相の評価が高い加藤勝信厚労相(竹下派)は、元財務官僚らしい手堅さがコロナ対策ではかえって裏目に出た。そこで、細田派の西村康稔経済再生相が仕事を分担して、まずまず評価されていると思うが、真価は今秋から冬にかけて問われる。評価されたらチャンスも生まれる。
小泉進次郎環境相(無派閥)は、閣僚として安倍首相に尽くそうという熱さが欲しい。安倍首相が、小泉純一郎首相時代に、祖父(岸信介元首相)や父親(安倍晋太郎元外相)時代の主従関係など、露も感じさせなかったことを見倣うべきだ。
いまは純一郎ご隠居の若様のつもりかというところがあっていささか非常識だ。逆に言えば、進次郎氏の最大の敵は「父親の生臭さ」だ。