今月始め、政府が、経団連や個別企業に対して、テレワークで働く社員の割合を7割まで高めるよう要請する、という記事が話題になりました。
テレワーク、再び「7割」要請へ…西村氏「後戻りせず維持して」
テレワーク推奨の動きについては、コロナ禍で突然出てきた印象をもたれている方も多いかと思いますが、そうではありません。2006年の安倍首相の所信表明演説で、テレワーク人口を倍増させる計画を掲げるなど、ときどきニュースになる程度には地道にすすめられてきた政府方針だったのです。
そのような流れをコロナ禍が後押しした形ですが、働き方の多様化という背景や、日本の低い労働生産性解消の一助として、日本企業のテレワーク対応の加速化はもはや避けられないところです。
ビジネスパーソンであった時分、佐倉市から東京への通勤にすっかり疲れ果ててしまっていた私からすれば、テレワーク環境の社会的整備は好ましい方向と考えます。佐倉市議会議員となった今、この労働環境の急激な変化をどうとらえ、どのように市の政策につなげていくべきかを検討し、公表するべきであると考えました。
そこで今回は、具体的な政策面に言及する前に、テレワークに関する現状整理をしてみたいと思います。
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株式会社パーソル総合研究所が本年6月、緊急事態宣言が解除された後のテレワークの実態について公表しました。
調査結果をみると、東京圏企業の従業員のテレワーク実施率は41%となっています。
テレワークの内容や質は、もちろん企業ごとにまちまちであり、単にExcelやPowerPointの資料作成を自宅で、というものもあれば、社内決済・ミーティング・業務進捗管理などのインナーワークや営業活動まですべてテレワークに切り替えることができた企業もあるようです。
個人的には、瞬間風速的にであったとしても、東京圏で働く41%の従業員がテレワークを実施していたという実績は驚くべき数字と考えます。コロナ禍がひと段落ついた5月では、同エリアでのテレワーク実施者率は38.3%であり、おそらく現状はより下がっていると考えられます。しかし長い目でみた場合、業種業態により差はありますが、企業におけるテレワークの導入は必須のこととなるでしょう。
その理由は、一つには日本の低い労働生産性の解消が挙げられています。日本は、先進諸外国と比較すると「労働生産性がすこぶる低い」国であることは広く知られていますが、その大きな原因の一つが「硬直化した働き方」にあるといわれています。
そのあたりの分析については、東洋経済ONLINEに公開された、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問の野口悠紀雄氏の論考が秀逸であり、一読をおすすめします。
特に、「労働者が在宅勤務を望んでいるのにもかかわらず、企業がそれを認めない」という現状が、トルコやスロベニアより低い労働生産性につながっている日本の労働環境の悲劇的状況は、このまま続けてよいものではないでしょう。
テレワークを企業に定着させるためには、労働者の評価指標から「会社にいること」を外して、成果主義に変換していく必要があると考えます。議員という立場でいうならば、行政についても同様であると考えますが、成果を数値化しにくい地方公共団体職員の仕事を成果主義に転換するのは、色々な意味で相当にエネルギーが必要な改革といえるでしょう。
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一方、テレワークの課題もみえてきました。
オンラインセキュリティ、サーバ環境、勤怠管理・進捗管理システムの未整備、などの「インフラの整備問題」は、需要と供給のバランスが整ってくれば解消される方向に向かうと思われますが、やっかいなのがテレワークの陰で「サービス残業」が蔓延しつつある、という問題です。
職住一致で「際限」なく…テレワーク普及で「サビ残」「長時間労働」が蔓延、労働者はどう対応したらいい?
このようなゆがみは、急激な社会の変革期には発生しがちです。法的整備が必要なのか、先に提示したような成果主義的な評価制度でどこまで解消が可能なのか、日本全体で考える大きな議論です。本件は、幸か不幸か日本以外の先進国はほぼすべて「先行事例」として学ぶ対象に成り得るでしょうから、政府もそのあたりをしっかりと調査し、わかりやすく広報してもらいたいと考えます。
その他、アゴラの執筆陣に名を連ねる資産デザイン研究所社長の内藤忍氏の論考「完全にテレワークしたいと思わない日本人」にある、日本のビジネスパーソンが仕事に対して求める一体感の欠如など、これまでビジネス環境にあった情緒的な風土を補完しづらいという弱点もみえてきました。
とはいえ、日本の労働環境にテレワークが定着するまでには、そう長い時間はかかることはないと私は考えます。この過渡期に、課題整理と推進をセットにした議論をすすめることが重要です。