中国共産党幹部の中でマルクス・レーニン主義を今も信じている者は少なく、極端にいえば、「中国共産党党員証」より「国営企業幹部の名刺」を自慢げに見せる党幹部が増えてきたことはこのコラム欄でも何度か紹介した。将来の政治異変(中国共産党政権の崩壊)に備え、財産を秘かに海外の銀行口座に移動させる一方、家族関係者には海外の国籍を獲得させるなど、中国脱出(エクソダス)計画を着実に進めている中国共産党幹部が増えてきているというのだ。
カタールのアルジャジーラ放送が今月23日、キプロス政府から入手した独自情報に基づき、その実態の一部を報じた。以下、海外中国メディア「大紀元」(8月27日)の記事を参考にしながら、中国共産党幹部たちが入手するために大金を払って購入する「ゴールデンパスポート」(黄金旅券)について紹介する。
「ゴールデンパスポート」とは、キプロス政府が2013年、キプロス国内で不動産購入など215万ユーロ(約2億7000万円)以上を投資した外国人に対して発行する旅券だ。アルジャジーラ放送はキプロスで2017年から19年の間、「ゴールデンパスポート」を購入した外国人リスト(通称「キプロス文書」)を入手した。この期間、1400人余りの外国人が「ゴールデンパスポート」を入手したが、そのうち約500人が中国人だったという。「大紀元」によれば、「多くは中国共産党の最高意思決定機構、全国人民代表大会(国会に相当)と政府の諮問機関である全国人民政治協商会議のメンバーである」というのだ。
大金を払ってもキプロス政府発行の「ゴールデンパスポート」を購入しようとする目的は明らかだ。キプロスが欧州連合(EU)加盟国だからだ。EU国民はEU域内を自由に移動できる。キプロス旅券を持ちながら、欧州全土を自由に行き来し、必要ならば、就労も可能だ。「ゴールデンパスポート」の購入資金215万ユーロは中国共産党幹部にとってお得な買物のうえ、財産管理への最も安全な道が開かれるからだ。
「ゴールデンパスポート」を購入する外国人にはロシア人も多い。東西両欧州の架け橋を自負するアルプスの小国オーストリアで一時、ロシア新興財閥(オリガルヒ)のロシア実業家がオーストリア旅券を手に入れるために巨額の投資をするケースが発覚し、問題になったことがある。
例えば、欧州の金融街ロンドンでは“ロシア・マネー”と呼ばれ、富豪のロシア人が不動産を購入するとともに、国籍も取得するケースが絶えない。英国は過去、少なくとも100万ポンド(約1億4000万円)以上を英国内で投資する外国人に対して投資ビザの発給、税の優遇などを与えてきた。その数は約3000人といわれ、4分の1はロシア人だった。英国には7万人から最大15万人のロシア人が住んでいる。多くは資産家だ。英国のプロサッカーチーム、プレミアリーグのチェルシーFCのクラブオーナー、ロマン・アブラモヴィッチ氏もその一人だ(「英国のロシア人社会に『衝撃』走る」2018年10月7日参考)。
スイスでも同じような事情がいえる。世界から逃げてきた人々(政治難民)だけではない。世界の富豪家がスイスの銀行に財産を保管するするケースが絶えない。レーニンはスイスに逃れ、革命を計画し、カルヴィンもスイスに逃れ、宗教改革を起こした。最近はロシア人のオリガルヒ、そして中国共産党幹部たちがスイスに財産を保管する一方、一種の政治亡命者のステイタスを享受しているケースがある。
「話」をキプロス文書に戻す。「大紀元」によると、アルジャジーラ放送はキプロス政府から「ゴールデンパスポート」を入手した8人の中国人名を公開している。その中にはアジア・ナンバーワンの女性富豪、中国最大の不動産開発会社「碧桂園(カントリーガーデン)」の創業者の次女、楊惠妍氏、 成都市の全人代メンバー陸文彬氏、武漢市黃陂区の区政協メンバー陳安林氏、元浙江省金華市の政協メンバー傅正軍氏、山東省濱州市の政協メンバー趙振鵬氏など、複数の省や市の高官の名が連なっている。その他、国営企業華潤電力の最高経営責任者(CEO)の唐勇氏の名もあった、という。もちろん、中国では2重国籍は認められていないから、「ゴールデンパスポート」を所持する国営企業幹部たちは不法行為をしていることになる。
ちなみに、EU委員会は昨年1月、「『ゴールデンパスポート』は、マネーロンダリング、汚職、脱税のリスクを高め、犯罪グループがヨーロッパに潜入する手段になりかねない」と警告している。
2012年に政権を掌握した中国の習近平国家主席はマルクス・レーニン主義を唱えていても効果がないことを知っているため、独自の習近平思想を構築し、国民には愛国心を訴える一方、党幹部たちには結束を呼び掛けているが、党幹部たちは共産党政権の崩壊の日(Xデー)に備え、秘かに「ゴールデンパスポート」を購入しているわけだ。北京からは習近平主席と李克強首相の権力闘争が激化してきた、という情報が流れている。それだけに、中国共産党幹部の「出中国=エクソダス」のテンポはこれまで以上に加速することが予想される。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年8月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。