「日本一の意識高い系」安倍晋三の退陣に寄せて

同志諸君。

私は混沌としたこの時代に、重大な決意をもって、この檄を叩きつける。46歳のいち中年の、いち市民の駄文だと一蹴されるかもしれない。しかし、微力であれど、無力ではないことを確信し、この国が、社会が1ミリでも動くことを期待しつつ、ありったけの想いを書き綴る。ルビコン川を渡るほどの決意で、多摩川に近い、大田区の自宅から、国境を超えた同志に世界的連帯を呼びかける。

7年8ヶ月にわたる安倍政権が終幕した。悪夢のような政権。批判はあれど、感謝などない。民主主義は徹底的にハッキングされ、汚された。ただ、この怒りの日々が唐突に終わり、極度の脱力感があった。実際、昨晩などはのべ12時間にわたり、寝込んでしまった。そして、さらなる悪夢の予感に身震いしている。

安倍晋三は記者会見で「断腸の思い」という言葉を使った。「北方領土」「拉致被害者」「憲法改正」に対する「断腸の思い」とのことだが、それだけだろうかと問いただしたくなる。すべては「やっている感」の塊であり、「看板政策」は「看板倒れ」に終わり、すべての道は「道半ば」だった。そういえば「アベノミクス」はどうなったのか?退任の会見で胸を張って「アベノミクス」と叫んだわけではなかった。

しかし、安倍晋三の言葉を借りるならば、いち市民として、左翼文化人の端くれとして、「断腸の思い」である。なぜならば、彼を真正面から退陣に追い込めなかったのだからだ。この間、野党はもちろん、自民党内の反安倍派も、安倍にかわる選択肢とはなり得なかった。モリカケ問題を始め、数々の疑惑はあったものの、野党もメディアも責任を問いただしたものの、決定打とはなり得なかった。選挙には強く。消極的な選択肢として、選ばれ続けた。

よく言えば、なりふり構わない、悪く言うと節操のない政権だった。安倍政権は「右投げ左打ち」だ。安全保障などでは批判を封じて法改正などを断行したが、雇用・労働に関する政策では、まるで旧民主党が考えそうな政策、労働組合が提案しそうなことが並んだ。だから、2013年の参議院選あたりから、雇用・労働に関する政策の少なくとも字面は与野党ともに似通ったものになり、論点が封じられた。一方、これらの政策が「経済」に関する項目に載ったのが安倍、自民党の特徴だ。「働き方改革」は「働かせ方改革」であり、「女性活躍」もその背景には人手不足解消という目的が見え隠れした。


安倍晋三とは、第二次安倍政権とは何だったか?ふと8年前に私が仕掛けた言葉を思い出した。「意識高い系」だ。言葉というものは、独り歩きし、変質・変容していくものである。PCから当時の原稿を呼び出して振り返ったが、「口先だけで成果の無い人」に対して警鐘を乱打する意味でこの言葉を広めた。

「意識高い系」を一発で黙らせる7つの最強鬼畜フレーズを伝授するぜ!(常見陽平)

その頃、いかにもこの本を売りたいという下心もありつつ書いたこの記事でも触れたが、意識高い系のよくある言動として・・・

自分のプロフィールを盛りまくる奴!

名言を受け売りしまくる奴!

やたらと人脈を作り、自慢する奴!

勉強会、異業種交流会をやたらと開く奴!

「いつかは起業したいっす」とか将来のビジョンについて、ムダに熱く語る奴!

ビジネス書を読みまくって、その真似をしまくる奴!
※原文まま

をあげている。

これは、安倍政権そのものではなかったか?「○○改革」「○○革命」「○○活躍」というポエムのようなキーワードが連呼される。成果については、必ずしも総括されない。しかし、「やっている感」は演出され続ける。「あれは何だったのか」と言いたくなる政策が多数ある。

人脈自慢もそうだ。「桜を見る会」などはまさにそうだ。数々の芸能人と交流し、アピールしたのもそうだ。

あたかも、スタートアップ企業、ベンチャー企業社長などによくいるタイプではないか。「意識高い系」そのものではないか。

ベンチャー企業といえば、安倍政権は、「働き方改革」「ユニークな人事制度」などでメディアに載りまくるが、実際の業績は怪しい企業のようだった。経営者や人事部長がやたらと熱い企業のようだ。強烈な人事権により政権は続いた。

このことをどう捉えるか。政治家には能力、資質、高潔さ、優しさ、情熱など期待されることが多々ある。実際は、意識高い系が日本のトップに立った、それが7年8ヶ月続いた。「意識高い系、すごい」と捉えるか、「やっぱり意識高い系は問題だ」と捉えるか。安倍晋三は意識高い系の成功例なのか、ロールモデルなのか。皆さんはどう考えるか?

さて、自民党では総裁選が始まる。その後は解散総選挙も噂されている。混乱の時代が続くだろう。ただ、その混乱もポジティブなものであってほしい。

何より、我々たたかう市民、考える市民、つながる市民の知性、理性、感性にかかっている。団結を創造し打ち鍛え、反撃の闘いをつくりだそう。


編集部より:この記事は千葉商科大学准教授、常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2020年8月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。