マイナポイントが9月1日から始まった。自分のキャッシュレス決済手段を一つ決めてマイナポイント・アプリ経由でそれを登録すると、来年3月末までの期間中にそのキャッシュレス決済手段で買い物やチャージ(入金)をすると25%(5000円が上限)のポイントが付与される。
7月ごろはネット上でも、この制度は来年3月31日までの期間限定で、予算も約4000万人分しか確保されていないので、早くポイントをもらう準備をするべきとあおる記事が散見されたが、8月末時点でマイナポイントに登録した人は350万人にも達せず拍子抜けの状態だ。この調子では約2500億円用意した予算が余ってしまう恐れがある。
なぜマイナポイントの人気が出ないかということの理由はいくつかあるが、8月30日付産経新聞は「キャッシュレス決済の9割を占めるクレジットカード会社の多くが不参加を表明したためだ」と言っている。
キャッシュレス・ポイント還元事業では、PayPayなどのQRコード決済が、国のポイントに加えて自前で大幅なポイントの上乗せをするキャンペーンを張って新規利用者を大幅に増やしたのに対し、クレジットカード会社はシステムの改修費等がかかる一方で、手数料率は従来よりも制度上低く抑えられ、事業の恩恵をそれほど感じられなかった。そしてこれに追い打ちをかけるように6月には政府からクレジットカードの高い(と政府は思っている)手数料を公表すると言われたものだから、政府との間に溝が出来ているというのだ。
たしかに、キャッシュレス・ポイント還元事業ではクレジットカード会社は、かけたコストの割には受けたメリットが小さかった気がする。しかし、手数料率の公表が不服でクレジットカード会社の多くがマイナポイント制度にそっぽを向いたとは思えない。
ここはむしろ割賦販売法を所管してクレジットカード会社ににらみがきく経産省主導のキャッシュレス・ポイント事業とクレジットカード会社に直接的な監督権限を持たない総務省が旗を振る事業の違いが大きいのではなかろうか。
しかし、いずれにしてもこれらはマイナポイント事業がうまくいっていない理由としてはマイナーな理由であって、最大の理由は手続きの面倒さにあると思う。
マイナポイントを取得しようと思うがマイナンバーカードを持っていない人は、まずマイナンバーカードを市区町村役場に行って申請して、1か月ほど待ってカードを入手しなければならない。そしてカードが手に入ったらスマホにマイナポイントのアプリをダウンロードして、マイキーIDを取得し、その上で自分が使うキャッシュレス手段を一つだけ選んで登録しなければならない。
これが以前のキャッシュレス・ポイント還元事業だと、私たちは何の登録も必要なく、今持っているクレジットカード、デビットカード、電子マネー、QRコード決済をそのまま使って、事業に参加登録した店でキャッシュレス決済をすればポイントがもらえたので、私たち利用者の負担の違いは両制度で比べるべくもない。
これは、マイナポイント事業がマイナンバーカードの普及拡大を目的の一つとしているためであって、目的のためにはやむを得ないこととはいえ、この手続きの面倒くささは大きな障害だ。これを何とかしない限りマイナポイント事業参加者の飛躍的な増大は望めない。
もっともこんな障害があっても、新型コロナの特別定額給付金のように10万円もらえるのであれば、多くの人が少しでも早く受け取るために3密をものともせずに市区町村役場に押しかけたように、マイナポイントの取得に血眼になろうが、上限5000円のポイントではなかなかそこまでのインパクトはない。
マイナンバーカードの普及拡大のために、マイナポイントに続いて来年3月からはマイナンバーカードを健康保険証として利用できるようになり、併せて薬剤情報や医療費情報の電子的な利用が可能となるということだが、マイナポイントの実施状況を見るとこれもなかなか前途多難なような気がするのは私だけだろうか。