アゴラ編集長 新田哲史
自民党総裁選は、菅官房長官が7派閥のうち5派閥の支持を固め、きのう(9/3)は一番槍をつけた二階派をハブる形で、細田・麻生・竹下の3派閥領袖が記者会見するなど、もはや菅政権誕生後の論功行賞争いといった様相になっている。
肝心の政策だが、この日行われた菅氏の出馬表明会見でも報道陣から上がってくる話題といえば、アベノミクスや新型コロナ対策、経験不足の外交が中心。はては天敵・望月衣塑子氏による記者会見のあり方といったマニアックなものが菅氏の見事な切り返しとともに脚光を浴びたくらいだった。
そうした中、福島原発の処理水問題については全く言及がないまま、記者会見が終わるものかと思われた矢先だった。その望月氏の「趣味」質問の次に福島の地元紙、福島民友新聞の記者が「忘れては困る」とばかりに大詰めに突っ込んできた(やりとりは産経新聞の速報参照)。
記者:安倍晋三政権は原子力発電を重要なベースロード電源と位置付け、安全が確認された原発の再稼働を進めているが、総裁になっても政策を踏襲するのか。東京電力福島第1原発の処理水問題は、次の政権で解決するか
これに対し、菅氏の回答(太字は編集部)。
次の政権と言われましたが、次の政権で解決しなきゃならない、この思いはそうであります。そして、いまの全体の電力政策の中で原子力政策もありますから、それに基づいておこなっていきたいというふうに思います。
安倍政権は、安全保障政策については国論を二分する問題には果敢に切り込むが、原発政策についてはおよそ「逃げてきた」と、専門家も電力業界も本音では感じている。安倍路線の正統派後継者として菅氏もひょっとしたら処理水については時間稼ぎの可能性も想起させたが、現実の問題として、2022年夏には施設内貯蔵タンクの保管容量はリミットを迎え、2年とされる準備期間を考慮するともう後がない。
そうした中で、昨日の記者会見での菅氏の発言は、トリチウムを希釈処理した処理水の「海洋放出」を明言こそしないものの、やや踏み込んだ印象がある。ここからどう具体的に進めるのか、総裁選の政策論議でも注目したいところだ。
「国は根本的な解決をする時期」地元町長の声
さて、質問した福島民友新聞は読売新聞が筆頭株主。処理水問題について親会社は昨年末の社説で海洋放出について「現実的な処分方法」と、日本のマスコミで数少ない容認・推進派だ。左派系を中心にマスコミの多数派は、「地元世論」とやらを強調して海洋放出に反対の論調だが、その読売が福島発で、原発立地の大熊町、双葉町の町長が揃って単独インタビューを特報。タンクの保管継続には明確に反対し、海洋放出とは言わないものの、国に決断を迫っていることは先日もアゴラで紹介したとおりだ。
「処理水問題を前へ」地元町長の覚悟、読売福島支局が大スクープ
アゴラ編集部では8日のシンポジウム「福島処理水 “ゼロリスク” とどう戦うか?」に先駆けて、両町長に率直にいまの心境を尋ねた。残念ながら、新型コロナの影響で県外メディアの対面はNGとされたが、書面と電話による取材に応じた。
大熊町の吉田淳町長は文書で取材に応じた。タンクの保管継続を求める意見が反対派から強まっていることについて
地上保管が限界に来ているから処分方法の議論が始まったはずだが、このままタンクが残り続けては、町の復興を停滞させるのではないかと危惧している。
との懸念を示した。他自治体の議会で反対の意見書決議が相次ぐことについてはコメントを避けたが、メディアの報道姿勢については次のように注文した。
議論を重ねても正解がある問題ではない。海洋放出反対という声が大きいのは事実だろうし、いたずらに煽っているとまでは思わない。ただ、どの方法を取ったとしても、100%満足いく回答はない。批判だけでなく、どんな方法を取るべきだと考えているのか、報道機関にも主体的に考えてもらい、そして社としての主張を報じてほしい。
一方、双葉町の伊澤史朗町長は8月28日、電話取材に応じた。震災から9年半が経ついまも、双葉町は県内で唯一住民は帰還できていない。役場も近隣のいわき市内に避難したままだ。
漁業者も被害者だが、我々が(この先)避難指示解除を経て、地域に戻っていくとき、トリチウム処理水のタンクを保管し続けるのであれば、原発の近くに住んでいる住民の人たちが一番の被害者になる。
との見解を示した。福島県内の市町村議会などが意見書を相次いで決議するなど、県民世論が反対で盛り上がっているように見えるが、伊澤町長は、経産省が設置した処理水問題で小委員会が議論を重ねてきたことを指摘。
この問題を解決するために小委員会をやってきたのではないか。対案を示さないで、問題解決になるのだろうか。
と疑問を呈した。そして、国に対しては、
昨年から意見公聴会、いろんな問題が提起されている。国は状況を把握しているわけですからしっかりした判断をしていただきたい。経験のないことなので慎重にならざるを得ないのは理解するが、廃炉に向けてしっかり進めていくことが前提。限られた時間しかない。国としてしっかり根本的な解決をする時期に来たのではないか。
と決断を迫った。(なお取材中、安倍首相辞任速報が入ったが、政権が変わっても国に決断を求める結論は一貫している)
そして取材の終盤はメディアの報道のあり方が話題に。「全町避難」がいまもなお続いている現実を、筆者も含めた東京のメディアが十分に認識できているとは言い難いところだが、伊澤町長はこの報道のあり方について
全町避難を継続している町があることをお忘れではないか。大変な思いをしている住民がいるが、置き去りにされている。しっかりと問題を解決するための長期的な取材をして報道をしていただく、問題が解決するために報道の責任がある。
との見解を示した。
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8日のシンポジウムでは本編に先立ち、吉田町長、伊澤町長のコメントもご紹介する予定です。
収録内容は、YouTubeでも事後放映しますが、当時の会場では、ご取材にきていただいた報道関係者の皆様と登壇者との質疑応答も積極的に行う所存です。
(※新型コロナ対策により、出席者数を限定しているため、参加希望のメディア関係者の方は文末のとおり、必ず事前にお申し込みください。すでに大手メディアも数社きており、残席に限りが出つつあります)
日時と場所
日時:9月8日(火)14時〜15時40分ごろ
場所:衆議院議員会館第1 618号室
プログラム(予定)
- 14:00〜14:10
主催社挨拶:福島第一原発の処理水問題のおさらいと、大熊町の吉田淳町長、双葉町の伊澤史朗町長のコメントご紹介(アゴラ編集長 新田哲史)
- 14:10〜15:20
シンポジウム本編「福島処理水 待ったなし。政治とメディアの責任は?」
- 田原総一朗(ジャーナリスト)
- 細野豪志(衆議院議員、無所属。民主党政権の環境大臣として原発担当)
- 柳ヶ瀬裕文(参議院議員、日本維新の会)
- 西本由美子(NPO法人ハッピーロードネット理事長。福島在住)
- 池田信夫(アゴラ研究所所長)※司会
- 15:20〜15:40
会場の参加者、報道関係者の皆様からの質疑応答
ご取材を希望されるメディア関係者の方へ
コロナ対策により、報道関係者を優先し、定員に達し次第締め切ります。詳しくは下記までお問い合わせください。
お問合せ先 株式会社アゴラ研究所 シンポジウム事務局 新田
e-mail:[email protected]