安倍政権と日本の政治③:中長期的な日本政治の行方・あり方についての私見

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<(2)短期的・中長期的な日本政治の行方・あり方

当面の動きの予想 ~菅政権の可能性~

ここまでで既にかなりの紙幅を使ってしまった。後半は、政局に焦点を絞る形で、私なりに、多少の願望も込めつつ、簡潔に将来の展望を書いてみたい。

総裁選出馬会見をする菅氏(公式Facebook:編集部)

まず、これは世上良く言われているように、自民党総裁選が、党員も広く含む形で行われるのか、議員中心(両院議員総会)で行われるのか、で大きく変わってくる。その際、自民党の党則第六条と第八十条が鍵となるが、非常にうまく出来ているので、ご関心の向きには是非一読をお勧めしたい。

個人的な意見としては、自民党総裁の決定は、事実上、総理を決める重要な機会であり、通常どおり広く党員も含む形で選挙にて行って欲しいと思うが、そうなると、自民党国会議員の間では人気がなく弱小派閥の長にすぎないが、各種世論調査では常に安倍後継候補のトップであり国民には人気のある石破茂氏の目が出てくるため、同氏への反発が強い安倍総理をはじめとする政権要路は絶対に避けようとするであろう。極端な意見としては、石破氏になるのを絶対に避けたい総理が、敢えてこの時期に、後述する「特に緊急を要する時」ということで議員中心に選べるように「自爆テロ」的に辞任したという人もいるくらいだ。

したがって、党則第六条第二項の「ただし書」に書いてある「特に緊急を要する時」ということで、党員も広く含む形での投票ではなく、両院議員総会で物事を決めようとするであろうが、そうなると当然、「内輪の論理で総理を決めた」という批判をまぬかれない。それに対して、私見では、3つの反論が用意されていると感じる。

一つは、党則第六条第三項に書いてある通り、完全に議員だけで選ぶわけではなく、都道府県代表が各三名ずつ含まれるので(計141名)、必ずしも議員だけで内輪で決めているわけではないという反論、もう一つは、党則第八十条第三項に明記されているように、今回選ばれる総裁の任期は安倍総裁の任期の残存期間、即ち約1年に過ぎないので、わずか約1年後には党員を含む広い形で、通常通りに総裁を選ぶということ、そして最後に、近々、衆議院解散という形で新しい政権に対する国民の信を問うので問題ない、というものである。

各種世論調査では、安倍総理の辞任表明以降、自民党の支持率が上昇して他党が下がる傾向が見て取れ、衆院解散→総選挙のチャンスでもあり、仮に総裁選に投票できない多くの自民党員からの不満が出ても、上記の3つ目の「言い訳」を前面に出して、菅官房長官推し前提の両院議員総会シナリオで進む可能性が高い。ただ、各種技術が発達している現在においては、党員を入れた投票も大した手間ではなく、また、安倍総理は病による退陣とはいえ、全く執務不能という状態ではないので、通常どおりの総裁選出をすべきだと感じる。

岸田氏・宏池会の悲劇とリベラル保守新党への期待

そうなると浮かばれないのが岸田氏である。一時は安倍後継の最有力候補に見なされ、外務大臣や政調会長として汗をかいて来たわけだが、世論調査での人気のなさから、現状、岸田政権誕生は望み薄となっている。

岸田文雄氏(Wikipedia:編集部)

そこで私が期待したいのは、岸田派(宏池会)が、国民民主党(分党予定後の玉木新党)などを結集して新党を作り、リベラル保守を掲げて総選挙に臨むという動きだ。さすがに現実的には、10月とも言われるすぐにあるかもしれない衆議院総選挙に向けて、このような新党を作るのは難しいかもしれないが、近い将来には期待したい。

政治通には言うまでもないが、宏池会と玉木氏には共に「大平正芳後継」を名乗っているという共通点がある。大平氏の出身母体である宏池会はそう名乗って当然だが、玉木氏はというと、氏の出身地・現在の地盤は大平氏の出身地の香川であり、大平氏の孫なども陣営にて玉木氏を応援している。しかも、玉木氏は、岸田派の若手リーダーである木原氏と財務省同期で仲も良好であると聞く。この大平イズムの大同団結に、もう一人浮かばれない石破氏・水月会(石破派)が加わるのも面白い。総理候補という意味では、岸田氏よりは石破氏の方が国民的人気があり、新党の顔としては民意に訴求しやすい。

紙幅の関係で詳述はしないが、私は、現在の小選挙区制に鑑みれば、現実的な政権担当能力を持つ政党が自民党以外にも誕生すべきであるとの健全な二大政党制論者であり、そのためには自民党は一部割れるべきであると考えている。

こう書くと、9月半ばにも誕生するとされている150人規模と言われている新しい野党の誕生があるので、二大政党という意味では、それをきちんと育てればいいではないか、という反論が聞こえてきそうだ。既に報道されているように、国民民主党が分党してその多くが立憲民主党と新党を結成することになっており、無所属議員の合流などもあって、約150人規模になると見られている。私は、この新党は、少なくとも現状では、選挙目的・議員としての生き残り互助会としての「野合」新党に過ぎず、健全な二大政党制の一翼を担う政党としては、全く評価していない。

4日、合流新党の代表選出馬を表明する枝野氏(本人ツイッター:編集部)

発表されている合流新党の綱領案・規約案を読み、交渉当事者の話も伺ったが(私自身が出演したテレビ番組にて、直接に同じく出演されていた立憲民主党の福山幹事長の話を聞き、また、個別にかつて上司でもあった国民民主党の玉木代表、学生時代からの友人である泉政調会長に、それぞれ個別にヒアリングもした)、1)自民党への理念・政策面での対抗軸、2)立憲民主党と国民民主党としての政策のすり合わせ面、のいずれの観点からも、立ち位置が曖昧であり、期待できない。

特に2)の両党の政策すり合わせに際しては、そもそも党首会談が一度も行われず(立憲側が回避)、数名ずつで集まって突っ込んだ議論をしての合流の協議会のようなものもない。政策の要となる政調会長が入っての協議も、半年以上にわたる合併協議の中でここ1か月くらいしか行われていない模様だ。ほぼ幹事長同士の交渉だけで物事が進んでおり、企業合併で考えれば、社長同士の会談もなく、両者の信頼醸成のプロセスもないという信じられない合流話だ。結果、本来、自民党への対抗軸として掲げるべきスタンス、例えば国民民主党側が訴えていた「改革中道」路線もなければ、目玉となる政策もない。綱領で唯一、エッジが立っている(ように見える)のは、原発ゼロだが、現在稼働している原発は実態的には4基である中、「対抗軸」と言えるほどの政策ではない。憲法改正についても、「立憲主義を深化させる観点から未来志向の憲法議論を真摯に行います。」と、まあ、当たり前の記述しかない。

よく、この合流新党は、かつての民主党の二の舞だという批判がなされるが、まだかつての民主党の方が、いわゆる影の内閣(シャドー/ネクスト・キャビネット)を作り、練り上げたマニフェストを用意し、政権を奪取しようとする姿勢・体制があったという意味で数段上だと思う。現時点では、この合流新党からは、影の内閣を作るという話すら聞こえてこず、「与党をスキャンダル等で叩いて、一定の批判票の受け皿となり、万年野党として生き残ろう」という姿勢しか感じない。合併に血道を上げていた小沢一郎氏の「このまま政治人生終われない」という気迫・執念だけが前面に出ている印象だ。

国民民主党は分党後、立憲民主党と合流しない勢力が、玉木代表を中心に、10人前後で新党を結成すると言われている。その中には、玉木氏を筆頭に、本来、岸田派と一緒になっても違和感のない人たち、例えば、古川元久氏、岸本周平氏、前原誠司氏なども含まれると見られている。少なくとも中長期的には、自民党宏池会と玉木新党を中心にリベラル保守派が結集し、先述のとおり石破派や維新の勢力なども取り込む形で、「改革かつ中道」を訴え、自民党と競り合うことの出来る新党が誕生することを期待したい。

玉木氏(本人ツイッター:編集部)

上記で詳述したとおり、日本政治の最近の現実を踏まえれば、安倍長期政権の成果を評価するには人後に落ちないつもりだが、歴史的に見て、日本を大きく活性化するには、まだまだ改革が足りないと感じている。安倍総理辞任で新しい時代がはじまらざるを得ない中、日本の夜明けに向け、青山社中としても、ますます色々な形で汗をかかねばならないと感じる。