日本の会社ではなくなる時

長年、外から日本の企業を見ていてそれなりに思うことはたくさんあるのですが、最近、日本の企業ニュースや株式市場を見ていて覇気がないと感じずにはいられません。それなりに稼いでいるのになぜ、株価が上昇しないのでしょうか?仮に資本をもっと集めたとしても内需中心の企業には狭い国内市場だけでは市場飽和を起こしているのではないかという気がしているのです。

(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)

日経の企業欄を見ても以前のように新規開発や新たなる挑戦に挑むようなニュースはすっかり少なくなり、多くの企業ニュースリリースもマーケットインパクトは限定的なものばかりであります。

そんな折、先日、ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイ社が5大商社の株式を最大9.9%まで購入すると発表しました。その内容についてはこのブログでも既報の通りです。そんな中、KKR(コールバーグ・クラビス ロバーツ)という大手投資ファンドが日本向け資金を年間7000億円振り向けると発表しました。日本企業に元気がないのになぜ、海外の投資家は日本に目を向けたのでしょうか?

ズバリ安いのだろうと思います。PBR(株価純資産倍率)はそれを比較する良い指標の一つでありますが、9月6日時点での日本のPBR平均は1.09倍です。主要国でこれに並ぶのは韓国の1倍ぐらいで中国でも2倍、台湾が2.2倍、アメリカに至っては3.5倍で世界平均でも2.3倍となっています。1倍というのは解散価値ともいわれます。上場企業が今日、今すぐに会社を清算し畳んだ場合、株主にいくら還元されるかの倍率です。2倍ならば100万円の投資残高に対して計算上50万円戻ってきます。一方、0.5倍ならば机上では200万円貰えることになり、それなら事業をやらずに会社を畳んでしまえばよいということになります。

現在最低なのが千葉興業銀行で0.09倍。ありえない数字ですが、下位には地方銀行がずらりと並びます。他にもマツダ0.39、かんぽ生命0.40、日本テレビ0.40、三越伊勢丹0.43など全上場会社の3751社のうち1864社が0.99以下であります。その比率49.7%とほぼ半分の上場会社は解散価値の株価すら維持できていないということになります。

これには見方が二つあり、業績が一時的に落ちこんだり悪材料が出ていることと本当に企業努力が足りない場合であります。ただ、全上場企業の半分が悪材料だらけということもなく、海外の株式市場と比較して明らかに株価が安く、資産を十分に活用できていないといえそうです。

ここに海外の投資家や投資ファンドが目を付ける可能性は以前から指摘されていました。特に使い道がないのに多額の現預金を抱えている企業は配当を増やすなり、投資をしなくてはいけないのに「適正な投資案件がない」というのです。

仮にバークシャー・ハサウェイやソフトバンクのような巨大な投資家がその資金の運用先がないというのならまだわかります。日本の名もないような会社が現預金を抱えているのです。例えば以前、前田道路を前田建設工業が買収する際に前田道路がびっくりするほどの現金を配当で放出しようとしたことありました。これが多くの企業で起きているのです。そして不思議なことに低PBRの会社は企業名が漢字名が多く、高PBRの会社はカタカナ名がずらりと並びます。

黒船が再びやってくるとすれば、特に漢字名の古くからあるけれど保守的な企業が徹底的に開国させられる可能性はあります。あの黒船襲来もアメリカの船が注目されますが、英国やオランダなどたくさん来たわけで今回もアメリカの投資ファンドが日本の「お宝さがし」ブームの火付けのようになるかもしれません。そんなになったら日本的番頭さん型のスタイルを維持してきた企業などはひとたまりもなく経営改革を求められることでしょう。そしてそれ以上にこてこての日本企業の役員会で英語が飛び交うことになるとなれば経営側も国際感覚の一つも身に着けておく必要が出てきます。

私の大学の友人の一人が東電勤務なのですが、かつて東電が海外進出を図る際、彼が言ったのは「うちみたいなドメスティックな会社に英語できる奴も、海外の仕事が分かる奴も、海外に行きたがる奴もいない」と言い切っていました。

さて企業版、明治維新が起きるのでしょうか?働き方や仕事の仕方も変わっていくのでしょうか?大きな波がやってくるのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年9月11日の記事より転載させていただきました。