コロナ時代も「豊かさ」の指標はGDPのままでいいのか?

価値の再設計と多様性の共有

写真AC:編集部

私の母校であるデジタルハリウッド大学大学院のキーフレーズに、

「みんなを生きるな。自分を生きよう。 」

「その໐໐は世界を幸せにしているだろうか。 」

という言葉があります。

ポストコロナの時代には、こうした人間の根本部分を熟慮し、 21世紀の人々の暮らしの実態を俯瞰的に捉え、バランス良く社会が好循環する仕組みを考える必要があります。

私たちはなぜ生きるのか。

各々は何を至上として生きていくのか。

その生き方は社会の何かに役立っているか。

幸せは、各々の環境下における個人の価値観と尺度で決める。

コロナ禍で死生観を深く見つめ直す機会にある中、価値の再設計と多様性の共有が社会像として重要な伴になると考えます。すなわち目標とする尺度を再考し、みんなが理解できるよう にわかりやすく、ビジョナリーに明確化することができれば、その生き方は世の中にわかりやすい価値となります。

「経済的価値」と「社会・文化・環境的価値」

これは友人でイェール大学の助教授を務めている成田悠輔さんに教えていただいた概念ですが、GDP(国内総生産)でアイデンティティを保ってきた国々が人口オーナス期を迎え、成熟国家としての道筋を歩む際には、一体どのようなアイデンティティを見出すのか。そしてそのアイデンティティは世界に対してどのような価値や幸福を提供しているのかといったことを ステートメントできる新たな尺度が必要だということです。

GDPは経済的価値を測る尺度として利用され、絶対的価値のように語られてきましたが、 社会・文化・環境的価値も踏まえた生活の質を測る、より優れた算出基準が考案できれば、それは国民国家にとって幸福をもたらす指標になると考えます。

そして経済的な価値を測る尺度であるGDPにも、

  • モノや場所、スキルや時間などを共有する「シェアリングが生み出した価値」
  • リユース(再使用)などの「中古が生み出した価値」
  • 日常生活において発生する「家事労働や自給自足分の価値」

などの有形な経済的価値と、

・無償のデジタルサービスが生み出す価値を換算してGDPに加えるGDP-BBeyond & Benefit) などの無形な経済的価値をどこまで含めるのかといった検討が必要となります。

また国民の幸福度における概念としてSubjective Happiness(主観的幸福度)やLife satisfaction(生活満足度)を加え、その両方を充足した概念であるWell-being(幸福度)を 想定し、究極的にはその幸福度を的確に把握するための指標化を目指すことが必要となります。

そのための第一歩として、以下のような福祉概念の指標が古くから存在します。

  • GNP(国民総生産)から軍備など福祉に貢献しない要素を控除し、福祉に不可欠な余暇・ 家事労働などを貨幣換算して加算したNNW(国民福祉指標)
  • GNPから経済的な通勤など福祉に貢献しない要素を控除し、レジャーや非市場的な活動 (家事等)などを貨幣換算して加算したMEW(経済福祉指標)
  • GDPのようにすべての支出を合計するのではなく、環境悪化のコストや自然資本の減価などを控除したISEW(持続可能経済福祉指標)
  • GDPに対し、所得分配などを調整し、家事や介護、ボランティアなどの価値を加算し、環 境破壊や犯罪などに関するコストを減算することにより算出できる、国民生活の真の豊かさの指標を表すGPI(真の進歩指標)

また社会・文化・環境的な価値を測る尺度として、

  • 経済活動の規模を、その国の土地面積に換算し、その土地面積を人口で割り、人間一人が持続可能な生活を送るのに必要な生産可能な土地面積を算出することによって、人間が自然環境にどれだけ依存しているかがわかる指標であるエコロジカル・フットプリント
  • 環境衛生(Environmental Health)と生態系持続力(Ecosystem Vitality)の観点から分類 された課題分野について、定められた指標を用いて評価し、環境問題への取り組み具合を数値化したEPI(環境パフォーマンス指数)といった有形な社会・文化・環境的価値に加えて、教育の質や多様性(デジタル関連の教 育) 、情報コミュニケーションの成熟性、情報プライバシーへの配慮、情報の正確性(量、質、偏り)などの無形な社会・文化・環境的価値が世の中を構成する要素として不可欠なものとなります。

さらに経済的価値と社会・文化・環境的な価値を跨ぐ尺度として、

  • 保健(平均余命) 、教育や所得という人間開発の側面から、対象国の平均達成度を測る指標 であるHDI(人間開発指数)
  • OECD加盟国間の比較が可能で、より良い暮らしに欠かせない「物質的生活環境」 「生活の質」及び「持続可能性」に関する11の構成要素と22の指標をもとに算出できるBLI(より良い暮らしの指標)が挙げられると思います 。

これらの指標を再考することで、世界はどこに注意を向けているのか 、そして何が欠けているのか。それらの指針を決める地図として活用することができます 。

ちなみに英国では 、デジタル化を目標として設定する際に国民の利益を可視化しており 、アナログ事業をデジタル化した場合の利益としなかった場合の損失を官民が連携して具体的な数字として示しています 。

SDGsとESG投資が創る付加価値

また、持続可能な社会を実現する動きとしては、SDGsとESG投資が世界的な潮流となっています。

持続可能な開発目標として掲げられるSDGsは 、Sustainable Development Goals の略称で 、貧困、飢餓、保健、教育、ジェンダー、水・衛 生、エネルギー、成長・雇用、イノベーション 、 不平等、まちづくり、生産・消費、気候変動、 海洋資源、陸上資源、平和、パートナーシップに関する17の大きな目標と 、それらを達成するための具体的な169のターゲットで構成されています 。

また、ESG投資 は、環境 (Environment) ・ 社会(Social) ・ガバナンス (Governance)要素に配慮した責任ある投資のことを指しますが 、 従来の財務情報だけではなく、持続可能な社会づくりという観点で言えば 、このような尺度に基づく投資が経済成長にとって不可欠な要素となります 。

こうした「有形・無形」 「アナログ ・デジタル」 「モノ・コト 」 の「経済的価値」 と「社会・文化・環境的価値」を包括する概念を創造し、従来から必要であったにもかかわらず、それを付加価値として評価されにくかった多様な価値を再設計することで、ポストコロナの時代のビジョンを明確に示して参ります。