中小企業同士のM&A(以下 スモールM&A)が、注目されています。
中小企業の半数の127万社が後継者未定であること(※1)、経営者が高齢化していることが背景にあります。
スモールM&Aで重要視されるのは決算書です。ファイナンシャル・アドバイザーなど(以下 アドバイザー)が内容を精査します。彼らが、提出された決算書をそのまま信用することはありません。
「中小企業の決算書は嘘だらけ」
これが彼らの大前提です。「預金残高以外は信用しない」と断言するアドバイザーも。
彼らの分析手法は、主に2つ。「並べること」と「繋げること」です。勘定科目を年度順に「並べて」不自然な点をみつける。関連する勘定科目を「繋げて」裏付けを取る。極めてシンプルです。
この分析手法は、スモールM&Aに限らず、銀行の融資検討、コンサルタントの事業再生など、様々なシーンで用いられています。
今回は、企業を買う側の立場で、決算書の「疑わしい箇所」をどのように見つけるか。アドバイザーたちの手法をご紹介したいと思います。
売上総利益の操作
会社の売却が決定した場合、売る側は自社をどう見せたいのか。利益を多く見せたい、と考えるのではないでしょうか。その場合、最も手軽に操作されるのが「売上総利益(粗利)」です。この売上総利益をサンプルに、利益操作について説明します。
アドバイザーの分析手法は「並べる」「繋げる」でした。
まず「並べて」みましょう。
売上原価を並べる
年度順に、売上・売上原価・売上総利益を並べます。直近3年間は以下のように推移したとします。
売上高
80,000→80,000→80,000
売上原価
60,000→60,000→50,000
売上総利益
20,000→20,000→30,000
アドバイザーは、「おや?」と思うはずです。最後の年は、売上が変わってないのに、売上原価だけ減っている。結果、売上総利益が増えている。不自然です。
買掛金と繋げる
次に「繋げて」みましょう。
売上原価と関連する勘定科目は、買掛金です。さっそく「繋げて」みましょう。
売上原価
60,000→60,000→50,000
買掛金
20,000→20,000→10,000
最後の年、つまり売上原価が減った年だけ、買掛金残高も減っています。何を意味しているのでしょうか。
これは「仕入の先送り」の疑いがあることを意味します。
今年の売上原価を減らしたい。だったら仕入れなかったことにしてしまえばよい。期末に届いた請求書を放置し、来年度に処理しよう。そういった操作をした場合、上記のような、残高構成になります。
さまざまな利益「調整」
このほかにも、いくつかチェックポイントがあります。
「売上が一定」なのに「原価が減少」+「棚卸資産(期末の商品)が増加」
→売上原価の翌期ずらし
「役員報酬が減少」+「役員貸付金が増加」
→役員報酬の隠蔽
など。
「並べる」「繋げる」手法を駆使すれば、決算書の「疑わしい箇所」を見つけることができます。
真摯な態度で
重要なのは、「疑わしい箇所」を発見した場合、相手(売却企業)が説明できるか、ということです。
上記の買掛金の例の場合、「商品の大幅値下げ」など、納得できる理由が説明できるか。根拠となる内訳を提示できるか。真摯な態度で情報を開示しているか。
今後、一緒に事業を行っていくうえで、こういった「姿勢」が重要となります。
今回、分析手法を紹介しました。
金融機関が融資を検討するときも、同様の手法で決算書をチェックします。決算書を見られる側になったとき、あらぬ疑いをかけられぬよう、説明資料を準備しておくと良いでしょう。
[※1]
中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題(中小企業庁)