前回の記事「保守や革新といった『型枠政治』で思考停止に陥る地方議会」で、地方議会の型枠政治による思考停止問題について述べた。
日本全国の市区町村議会において、先の記事で指摘した状態が100%の普遍性をもっているというつもりはないが、圧倒的多数の会派なり政党なりが存在する地方議会において、その姿はある程度あてはまるのではないかと思う。
今回は、「地方議会の型枠政治」について、つい先ごろ閉会した千葉県佐倉市議会9月定例会において発生した、より深刻な事例について紹介する。
コロナ禍における議員報酬削減議案の否決の背景
この議案については、9月定例会に先立つ6月定例会で、ほぼ同様の議案が「さくら会、公明党、自由民主さくら」の17名の議員により否決された、という伏線がある。
そのあたりの詳細は、私の記事をご確認いただきたい。
その折も、否決側にまわった17名の議員から、「なぜ否決なのか?」という理由は、討論の場で一切語られることはなかった。
私は、議員報酬削減議案を提出した議員の一人だ。しかし、「コロナ禍の下にあっては、議員報酬を削減することが完全なる善である」というつもりはない。そこには当然、争点となるポイントがあり、それを議会の場で論点整理し、それぞれの考えについて説明責任を果たしたうえで議決されるべきだ、と今でも考えている。
今回の9月議会で、再度議員報酬削減議案を提出したのは、市民ネットワークさくら、共産党、市民オンブズマンひまわり会と、私を含む3名の無会派議員の合計10名だった。あえてカテゴライズするならば、当該10名のほとんどは、仕分けとしては「左派」とか「革新」などと言われる議員たちだ。その意味で、「右派の髙橋がなぜそこに名を連ねているの?」と、立場のある方から指摘をいただきもした。私は「是々非々です」といういつもの枕詞をお伝えしたうえで、その方に説明をした。
繰り返すが、私は自分が「右派議員である」とか、「保守議員である」とかという仕分けに重きを置いていない。それどころか、そのような自分に対するレッテルは、私のこれまでの言論や賛否を見て、市民の方々が「そう考えている」というくらいの感覚でとらえている。型枠をもとにした判断は、思考停止につながる危険なふるまいであるからだ。
二度目の議案に込めた10名の「問い」と17名の「黙殺」
イデオロギーや政治的背景が異なる当該10名が何度となく集まり議論したうで、先に否決をした17名の議員に立てた問いは、以下のようなものだった。
- 内閣府が発表した本年4~6月期の国内総生産(GDP)は、年率換算で27.8%減った。日本の経済がこれだけの打撃を受けている中、自分で報酬額を決められる政治家が、何の経済的影響を受けることなく、コロナ禍の補償制度や対策を議決することができるのか?
- また、議員が報酬を削減することで、市民に覚悟を示す必要があるのではないか?
この二つの問いに対する私たち10名の議員の答えは、「コロナ禍の影響が続く今年度いっぱいは、議員報酬と期末手当は10%削減すべき」というものだった。
さらに、削減した報酬等を元に、今後のコロナ対策費用を捻出する必要があるのではないか、という問い。この点について私たち10名が考えたのは、報酬削減等で生み出すことができる約1500万円の元手をベースに基金を作り、例えば1億円程度の目標値を設定して議員が力をあわせ寄付を募る、という方策だ。これは、三田市や宝塚市など先行事例があり、十分勝算のある作戦だった。
一度、先の6月議会で「黙殺」という形で否決された議案を、再度今回の議会で提出した意味は、「否決するなら、それらの問いについて明確な回答がほしい」という議論の提起でもあった。
それらについて、議員報酬等削減の条例改正案と、基金設立の決議案という2本の議員提出議案にまとめあげ、8月27日に、佐倉市議会議長宛に提出した。
17名の議員の「黙殺」行為は佐倉市民の利益侵害行為である
佐倉市議会9月定例化での本議案に対する議決は、お察しのとおり、「さくら会、公明党、自由民主さくら」所属の全17名の議員により、何の説明もなく否決された。議案に対する質疑もなく、討論で否決する理由を述べることすらなく沈黙を貫き、ただ「否決」する行為は、議会における黙殺行為である。
もちろん、すべての議案に賛否を表明することはできないが、28名の議員中10名もの議員が署名し、市民生活にも大きくかかわる議案である以上、当該議案を「黙って殺す」行為は、数の暴力と言わずして何であろう。
繰り返すが、本議案に反対することが悪である、とは言っていない。
反対する理由を表明せず、数の力で議案を圧殺することが、市民による議員の評価を妨げ、議会基本条例の精神からも逸脱する行為であることについて「市民の利益を阻害している」と指摘している。
数の力でこっそり議決して、市民からの評価を「させない」ことが狙いでなのだろうか。議会議員である以上、もちろんそんな意図があろうはずはない。市民にそのような勘繰りをされないよう、そろそろ重要な議案の「黙殺」行為をお辞めになられたらいかがだろうか。