河野大臣の霞が関ブラック調査の秘訣

千正 康裕

9月17日の就任会見で「霞が関のブラックな状況をホワイト化していく」と決意を示した河野大臣が、全府省庁を対象に、職員の在庁時間を調査するよう指示したとの報道が出ています。

河野行革相、官僚の「ブラック労働」改善に意欲 実態調査へ(産経新聞)

ちょうど、今週僕も仲間と一緒に河野大臣を訪問し、霞が関の働き方改革について意見交換をさせていただきました。まずは、正確な実態把握からということを僕たちもお伝えしましたし、大臣の改革への強い意思も感じました。

僕も、霞が関の働き方改革の話をするときに、現状がいかに悲惨な状態かを説明する時にいつも苦労するのが、どのくらい長時間労働なのかデータがないということです。

官僚たちの真の労働時間はブラックボックスの中です。

人事院が公表している本府省(いわゆる霞が関)の職員の残業時間は年間360時間程度、平均して月30時間程度です。

この数字が実態を反映していると思っている官僚はおそらく一人もいないでしょう。

僕自身は、忙しい部署を渡り歩いてきたのは確かなのですが、感覚的には、ほどほどの時期で過労死ラインの月80時間くらいの残業、まあまあ忙しい時期で120時間くらい(毎日終電で土日は休んでいるくらい)、一番忙しい時期は200時間を超えていたと思います。

2019年に「官僚の働き方改革を求める国民の会」が1000人の現役及び退官した官僚本人を対象にとったアンケートによると、回答者の65.6%が労働基準法の年間超過勤務時間上限である720時間を超えていました。1000時間超えが42・3%(過労死ラインの960時間を超える)、1500時間超えも14.8%です。こちらの方が僕の実感には合っています。

官僚1,000人アンケートの結果はこちらから見られます。

では、なぜこのようなことが起こるのでしょうか。

残業代が予算の範囲内でしか払われないので、それを超える部分は、組織が命令した残業ではないことになっているからです。

そうです。霞が関はサービス残業が常態化していますが、それを認めるわけにはいかないので、残業代が支払われた分しか残業していないことになっていて、それ以外は命令を受けて仕事しているわけではないと強弁してきたのです。ブラック企業の見本みたいですが、残念ながらそれが実態です。

正しい時間の現状把握がなければ、課題も正しく認識できないし、解決策の検討もできません。

この問題は、長く野党からも国会で指摘され続けてきましたが、これまで政府は調査できませんでした。違法なサービス残業を認めることができないからです。

では、なぜ河野大臣がこれを指示できたかというと「労働時間」ではなく「在庁時間」の調査を指示したからです。

労働時間は、平たく言うと組織(上司)の命令を受けて仕事をしている時間のことです。場所は問われません。出張でも労働時間ですし、テレワークでも労働時間です。

一方、在庁時間というのは、要は職場にいる時間のことです。

残業代の基礎となるのは在庁時間ではなく、あくまで労働時間です。

両社の隙間に何があるかというと、仕事は終わっているのだけど、勉強のために職場にいて資料を読んでいるとか、自主的に資料説明の練習をしているとかそういうことです。

つまり、政府が公式に把握・公表している労働時間よりも在庁時間がかなり長いという結果になっても、だからといって違法なサービス残業をさせているとは限らないと言い訳できるということなのです。

これは、僕が厚労省で取り組んでいた「医師の働き方改革」という課題の中で、病院の労基法違反の問題を回避しながら長時間労働の実態を把握したのと同じ手法です。なので、労働時間ではなく在庁時間の調査ならいけると僕もお伝えしました。

労働問題に取り組んでいる人なら気づく話なので、色々な詳しい方の意見を聞きながら知恵を絞って、これまでできなかったことをしっかりと前に進めていただいているのだろうと思います。

改革を進めるためには、強引なリーダーシップがあればよいというものではありません。知恵が必要なんです。

おそらく、この調査結果が公表された時には大きなインパクトがあり、霞が関の働き方改革にも、より注目が集まるだろうと思います。

霞が関も巨大ですし、システム化などの予算も必要になってきます。また、官僚にとって最も業務負荷の大きい国会の運営を効率的にしていく国会改革も必要になってきます。

霞が関の働き方改革が成功するかどうかは、究極的には世論の後押しにかかっていると思います。

誰かが悪いということではなく、昔からずっと誰も変えられないままできてしまったわけですが、今、霞が関が本当に国民のために働ける組織に、今の時代に合った働き方に、変える時だと思います。

辞めたいという若手も多いので、雪崩を打って若手が大量離職したら、この国の政策を作る機能、行政サービスをちゃんと届ける機能は崩壊してしまいます。あまり時間はありません。

無駄な作業が廃止され、作業が効率化し、国民の役に立っている実感を若い人が持てるようになれば、やりがいを持って元気に働けると思います。

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編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2020年10月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。