もう「お笑い」でしかない“世田谷モデル”

稗島 進

区議会で“世田谷モデル”を含む補正予算が可決されたのが9月28日。反対したのは私を含む4議員のみ。この件は前回すでにご報告した(コチラ)。

その後、区議会は30日から決算特別委員会が開かれ(10月13日が最終日)、初日の総括質疑、2日目の企画総務領域でも各会派から“世田谷モデル”について質問が集中。各会派が共通する問題点は、保坂区長の情報発信のあり方だ。

役所とも意思疎通せず、もちろん議会無視は当たり前で、毎日メディアに登場し、92万区民に「誰でもいつでも何度でも」PCR検査が受けられると誤解を与えたことである。これについて、私も議会で「youtubeを使って直接、区民に説明すべきだ」と指摘した。これを聞き入れたのかはわからないが、可決翌日の28日、たしかに区長は動画配信を行った。

世田谷区・保坂区長(区YouTube)

しかし、である。私が要望したのは、区長のぶち上げた内容は、「92万区民、そうでなくても、決定した26000人のエッセンシャルワーカーと限定されたものではなく、かなりの対象者が検査を受けられると思っている区民が多いので、そこを釈明すべき」というもので、この動画ではそのことは見事に触れられていない。区長が議会で一貫しているスタンスは、「私は間違ったことを言っていない」ということなのだが、私は「間違って伝わっていますよ。だから、釈明してください」とお願いしているのである。

それを頑なに行わない区長の言い分は、「誤解した区民が悪い」と言っているのに等しい。区長は議会で「メディアが勝手にテロップを流したのだから、自分に責任はない」という趣旨を繰り返し答弁しているが、だったら、なぜテレビ局や新聞社に訂正を申し入れなかったのか。あるいは、そういうコメントを発しなかったのか。どう考えても、脚光を浴びている自分に酔っていたとしか思えない。だから、水を差すような「余計なことは言わない方がいい」と思っていたのかもしれない。

議会はこのいい加減なやりっ放しを問題視している。たとえば、区長のツイッターを見ればわかるように、情報発信の仕方については、かねてから繰り返し批判されてきたし、私も取り上げてきた。それにも関わらず、一向に改まらないので、もはや区長の性格に起因するものだと思わざるを得ない。

ちなみに、保坂区長のツイッターの位置づけは、区の見解によると「保坂展人さん個人のもので、保坂展人区長のものではない」ということになっている。

だから許されるというものではないのである。誰が区長のツイッターを私人と公人を使い分けて読んでいるというのか。どう見たって、92万人の生活を左右する権限を有する首長のツイッターである。この不正確な情報発信を許したままでいいのか。

私はもとより、多くの区議会議員が指弾してきたが、区長は絶対に直さない。「過ちは認めて、次から直せばいいじゃないですか」と諭した議員は何人もいる。われわれ議員は呆れ返っている。正直、この話は疲れた。もう多くは語るまい。事の可否は区民の判断に委ねたい。

わが会派(無所属・世田谷行革110番・維新)の大庭議員は質疑で、「今回の“世田谷モデル”が全額国費で賄われるのなら、エッセンシャルワーカーに限らず、もっと拡大して“誰でもいつでも何度でも”やったらいいじゃないか」と鋭く指摘したが、区長はぶち上げたはいいものの、そもそも、そこまでやる情熱がなかったのは見え見えなのである。

ご自分は「国や都を動かした」と答弁して得意になっているが、だったら、初志貫徹すべく、国や都とさらに粘り強く交渉し、当初のニューヨーク州をモデルにした“誰でもいつでも何度でも”をやり遂げればいいのである。

そういう気概はそもそもないから、我々以外の会派の要望を盛り込んで、二転三転した中途半端な妥協案を提出し、可決してもらったその心は、「私は議会の意見も盛り込み、なんとか“世田谷モデル”を実現しました」という言い訳をしたいがためである。

しかし、繰り返すが、それは当然のことながら、メディアで喧伝した“世田谷モデル”とは、ずいぶんかけ離れたものになっているのである。正しい理解は、じわじわと世間でも広がりだし、産経新聞に続き、都政新報も「コロナ検査 『世田谷方式』に暗雲」と報じた。

それにしても、“世田谷モデル”は区長の暴走はもとより、内容からいっても「お笑い」と化している。この面白くも何ともない、それよりも、まったくもって腹立たしい“芸”を見せられた我々は、4億もの視聴料を払わなければならないのである。