日本学術会議から推薦された会員105名のうち、6名が任命されなかったことで波紋が広がっている。内閣総理大臣が任命することになっているので、学術会議からの推薦者であっても、それにノーと言う権限はあるが、総理大臣の任命は形式的なものと理解されており、また、任命しなかった理由が明確でなく、政治的判断ではないかとの反発が起こっている。
日本学術会議は210名の会員からなり、3年ごとに半数が入れ替わる。学者の国会と呼ばれている組織だ。私も6年間会員であった。国に対して種々の提言を出しているが、それがどのような形で生かされているのか、一会員にはあまりよくわからなかった。当時の吉川弘之会長の気品のある話に、感動を覚えた記憶だけが残っている。
私のような地位に執着しない人間には、会員であることの価値はあまりわからないが、多くのメンバーは日本学術会議の会員であること自体に誇りを感じていたような気がする。それなので、今回の騒動は、大学の自治、学界の自治を侵害したかのように、多くの学者の目には映っていると思う。
誰の発想なのかはわからないが、報道でも触れられていることが事実であれば、敵対する人間をこのような形で排除する考えは、今後、大きな影響を与えると思っている。学問の自由という不可侵の領域にあえて踏み込む必要があったのか、甚だ疑問である。
日本学術会議の影響力は私には判断できないが、この問題は広く反発を招き、意外に大きな形で政府に跳ね返ってくるのではと考えている。まさに、虎の尾を踏んでしまったように私は感じている。
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2020年10月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。