10月3日は2つの出来事と結びつく。1つは東西ドイツが再統合した日であり、今年で30年を迎えた。同日、ドイツ東部のポツダムでシュタインマイヤー大統領やメルケル首相らドイツ首脳関係者が参加して、式典が行われた。もう1つの出来事は2013年10月3日、イタリア最南端のランぺドゥーザ島沖で難民545人を乗せたボートが波の荒い秋の海をリビアのミスラタ海岸からスタートし、約140キロ先のランべドゥーザ島を目指したが、途中船が火災を起こして沈没し、368人が犠牲となった。あれから7年が経過した。
東西ドイツ再統合30年のニュースの前に、ランぺドゥーザ島の悲劇は忘れられたような印象を与える。13年10月12日にはマルタとランべドゥーザ島の間の海上で難民が乗った船が沈没し、35人の難民が亡くなった。すなわち、10月3日、そして12日の両日だけで約400人の難民が新天地の欧州を目指す途上、地中海で溺死したことになる。
国連の情報によると、過去7年間で約2万0400人の難民・移民が地中海で溺れ死んだ(資料参考)。メディアは「地中海が墓場となった」と報道していた(「地中海が墓場になる!」2013年10月17日参考)。
欧州連合(EU)はその後、北アフリカ・中東からの不法移住者の動向を迅速にキャッチするために監視システムの構築を決定。イタリア当局は海難に遭遇している難民・移民ボートを救済するため海上警備を強化することを決定したが、問題は救援した難民・移民をどの国が収容するかだ。その点ではEU内で解決の見通しは今なお立っていない。
欧米諸国は過去、そして現在もアフリカ諸国の独裁者や指導者に武器を売り、利益を得ている。紛争を激化させ、大量の難民を生み出している。それだけではない。アフリカ西・東部の海岸で欧州の漁船は大量の魚を捕り、アフリカ人漁師の生活の糧を奪っている。また、「豊富な補助金を受けた欧州の農家たちは、過剰生産された農産物をアフリカ諸国の市場で売っている。そのため、アフリカの小農家の生活を破壊している」という声も聞かれる。アフリカの難民・移民問題には、アフリカの資源、労働力などを奪う一方、現地の発展、教育には寄与してこなかった欧州諸国の過去の植民化政策の影響が反映しているとみて間違いないだろう。
ちなみに、海上での救援活動はイタリア警備船や非政府機関(NGO)、商船に委ねるのではなく、EUが連携して救援すべき問題だ。イタリア当局によると、今年に入り約2万4000人がイタリアの湾岸にたどり着いた。前年同期(7900人)比で3倍、2018年同期比で13%多い。
欧州で今年に入り、難民・移民問題が再び浮かび上がってきた。ギリシャのレスボス島(Lesbos)にある欧州最大の難民収容所、モリア(Moria)の難民キャンプで9月9日未明、火災が生じ、収容されていた難民1万3000人余りが路上に放り出されるといった事態が発生し、その対策に乗り出さざるを得なくなったからだ。
独週刊誌シュピーゲルのルポ記事によると、モリアのキャンプの収容能力は3000人だが、2020年9月7日現在、1万2589人。160人の難民に1カ所のトイレ、200人の難民に1カ所の水道蛇口といった最悪状況だ。フランス通信(AFP)は「難民キャンプはスラム街と化している」と報じていた。
2015年の時、ブリュッセルがまとめた難民受け入れ分担案に対し、ハンガリーやチェコ、ポーランドなど東欧加盟国が拒否し、EUの統一した難民政策は暗礁に乗り上げた。EU下半期議長国のドイツのメルケル首相は先月15日、ギリシャのレスボス島のキャンプで火災に見舞われた難民1553人を受け入れると発表したが、EU27カ国中、モリア難民の受け入れを表明した国はドイツを含め10カ国だけで、17カ国は受け入れを拒んでいる(「『モリア難民』問題で国会議論が白熱」2020年9月25日参考)。
なお、フォンデアライエン欧州委員長は9月23日、EUの統一した難民・移民政策を確立するために新しい改革案を発表し、加盟国の「連帯と責任のバランス」を強調したばかりだ。具体的には、加盟国は認定難民を受け入れるか、受け入れない場合は難民審査で認定されなかった難民の本国送還を担当する、という加盟国の責任分担の明確化だ。そして難民審査は難民が最初に入国した国で実施するという「ダブリン規則」を見直し、ギリシャやイタリアの負担を軽減する。その他、国境警備の強化、難民審査の迅速化、効率化などが明記されている。問題は、それらの改革案が加盟国27カ国の総意のもと実行できるかだ。
<資料>
地中海で溺死した難民・移民数
2014年…3,283人
2015年…4,054人
2016年…5,134人
2017年…3,139人
2018年…2,299人
2019年…1,885人
2020年… 562人(1月1日から9月10日現在)
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合計・・・20,356人
出典・・国際移民機関(IOM)
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年10月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。