歯医者でうまくいかないとき、どこで見てもらう !? 歯科専門医制度

「娘の歯科治療がうまく進まず、転院を考えているんだけど、どう探せばいいかわからない」

臨床の現場では時にこのようなご相談を受けることがあります。詳しく伺ってみると、なるほど、担当している歯医者の治療の流れ自体は妥当だけれども、たびたび再発し治っていかず、先行きの見通しに関する説明がないことに強い不安を抱いているようです。

写真AC:編集部

おそらく何らかの難症例なのでしょう。まずは担当歯科医と十分に話し合いを持つよう促しつつも、具体的に転院先を探している段階に入っているようなので、セカンドオピニオンをとる意味合いでもどう探せばよいかアドバイスすることとしました。

いまはネットで様々な歯科医院の情報を見ることができますが、広告というのは自分の強みを伝えるもの。例えば日本インプラント学会専修医、同専門医、インプラントプラチナエリートメンバー(仮称)、これらを一般人が区別することは難しいと思います。

認定医・専門医制度は民間資格です。2020年10月現在、この中の一部「口腔外科」「小児歯科」「歯科麻酔」「歯科放射線」「歯周病」の5分野のみが、厚労省から広告として掲載することを認められています。

写真AC:編集部

認定医・専門医制度が登場したばかりの頃はある程度「乱発」し、その実効性に疑問を持たれていました。今でも歯医者同士で認定医・専門医を取る必要はあるのか、という話題になります。私自身の経験としては、取得条件の試験勉強や、試験官を納得させるだけの症例を目指す努力は、価値があったと考えています。

一方で形ばかりの症例発表や筆記試験で取得できてしまうタイトルがあるのも事実で、それは下記の資料からも読み取れます。

(厚生労働省ウェブサイトより抜粋)

(参考)日本歯科医学会所属学会の現状 ― 歯科医療の専門性に関するワーキンググループ(2016年3月24日)

もちろん受験者数や受験資格自体のハードルも加味しなければなりませんが、わかりやすいところで解説をすると日本インプラント学会専修医の合格率は98%。同専門医の合格率は74%。受験資格条件も専門医の方が厳しいということが分かります。学会としてはまず専修医を普及して標準的なインプラント治療の裾野を広げ、専門医で技量を厳しく評価しようという戦略が伝わってきます。

一方、〇〇メンバーといったメーカーが発行するものは販売数、つまりお得意様という意味です。症例数の多さに一定の価値はあるかもしれません。

このように見ていくと厚労省が広告可能と認めている5分野に加え、認めようと検討している「歯科保存」「補綴歯科」「矯正歯科」「インプラント歯科」の専門医に関しては、大学病院と同等の標準治療を十分に理解していると言えるのではないかと考えております。

医科において専門性の明示は、患者の利便性・ドクターの向上心双方を喚起するものとして、厚労省肝いりで基準の統一など、大規模な横断的再編がなされている最中です。これは患者にとって分かりにくい現状を見直す意図があるようです。

歯科でも日本歯科専門医機構が発足し、追従する動きが始まっています。

(参考)日本専門医機構について ― 一般社団法人日本専門医機構

一方で専門医制度の位置づけなどについて歯科業界内部での認識が十分に普及していないという側面もあります。私のようにある程度大学に関わっていると、取得にどれだけの修練と苦労が必要か、どのタイトルの難易度が高いかというものは理解できるのですが、歯医者は卒業後すぐに大学を離れてしまう人も多いのが実情です。

歯科専門医制度の整備とあわせて、今後は地域社会における「かかりつけ歯科医」から「歯科専門医」への紹介制度の確立と普及が必要かもしれません。