“サムシング・グレート”を取り戻せ!

トランプ米大統領は3日、入院先の病院から投稿した動画の中で「私はホワイトハウスに戻らなければならない。米国を再び偉大にするという仕事を完了させなければならないからだ」と発信したという。トランプ大統領夫妻の快癒を祈る。

Twitter / アカウント凍結
ニュース速報、エンタメ情報、スポーツ、政治まで、リアルタイムでフォローできます。

ところで、トランプ氏は常に「米国を再び偉大にしたい」と述べる。同氏が語る「偉大さ」とは何を意味するのだろうかと考えていた時、フランシスコ教皇は教皇就任3番目の回勅「Fratelli tutti!」(全ての兄弟)を発表した。その回勅(カトリック教会の指針を示す公的書簡)に考えさせられる文を見つけた。

「私たちは華美と偉大さを夢見るが、私たちが目撃したものは偏向と寡黙、そして孤独だった」

という文章だ。旧約聖書「伝道の書」の記述者の「空の空、空の空、いっさいは空である」といった話を思い出した。トランプ氏はその内容をどのように受け取るだろうか。

古代ローマ帝国は「世界の道はローマに続く」といわれるほど栄えたが、帝国は滅び、華美は消滅した。権力を思うままに振るったネロ皇帝も最後は自殺に追い込まれていく。富も華美も権力も永遠ではなく、その偉大さはこの世の束の間の夢に過ぎない。「全ては空だ」は決して人間の運命を悲観的に捉えた内容ではなく、華美や偉大さは本来、人生をかけて追及するものではない、ということを言いたかったのだろう。

トランプ氏の米国は世界最強の軍事国であり、その富は既に世界最大だ。にもかかわらず、トランプ氏は「米国はそれらの偉大さを失った」と思っているのだ。軍事力、経済力は失われていない。世界の覇権を狙う中国共産党政権が存在するが、米中間の国力の差は依然大きい。

その意味で米国は偉大な国家だが、米国の衰退を直感する政治家、歴史学者、知識人が出てきている。トランプ氏は米国の現在の偉大さを永遠なものにしたいのだろうか。それではロシアのプーチン大統領や中国の習近平国家主席が大統領職や主席ポストの終身制を願うのと同じだ。独裁国家への道に過ぎない。

トランプ氏自身は多分、再び取り戻すという「偉大さ」の内容を理解していないかもしれない。ただし、米国が偉大さを失ってきているという危機感は間違いではないだろう。トランプ氏が病院から発信した動画には、病と闘っている高齢者の不安が顔に現れていたのを感じた。

トランプ氏はウォルター・リード軍医療センターで抗ウイルス薬「レムデシビル」の投与を受け、「奇跡のようだ」と医者と治療薬に感謝している。率直な感想だが、米国では既に20万人以上の国民が新型コロナウイルス(covid-19)で亡くなっている。新型コロナ感染が広がった直後のニューヨークの状況を思い出してほしい。医者にもかかれず、薬も手に入らないような状況下で多くの国民が犠牲となった。開発途上国の話ではない。トランプ氏が誇る世界最強国・米国の国民の姿だった。富の格差、医療の格差は米国の偉大さを傷つけている。

それだけではない。今年に入り人種差別抗議デモが米全土に拡大してきた。ブラック・ライヴズ・マター運動(BLM)は新しい現象ではない。肌の色が違うという理由で中傷誹謗し、公正に接することができない現象は米国では今なお至る所で見られる。米国の偉大さは地に落ちている。

トランプ氏の「米国の偉大さを再び取り戻す」という内容は上述した内容の解決を意味するのだろうか。そうではなく、軍事力、経済力の強化を意味するとすれば、米国の偉大さを再び取り戻すことは出来ないのではないか。フランシスコ教皇の回勅、「伝道の書」の記述者が指摘したように、トランプ氏が追い求める「米国の偉大さ」はいつかは消えていく「空の空」に過ぎないからだ。

ところで、世界の一流の科学者、宇宙物理学者たちは神の存在に出会っている。彼らは実証されるまでは「神」とは表現しないが、宇宙から人間の細胞まで全てを掌握する“サムシング・グレート”の存在を感じているのだ。すなわち、彼らは地球の学校の教室で学んだ数式をもとに宇宙を観測できるという事実(観測性)に驚く。だから、サムシング・グレートの存在を予測せざるを得ないのだ。宇宙が偶然に誕生したとはどうしても考えられないのだ。

科学者が感じるサムシング・グレートとトランプ氏の米国の偉大さは一致するだろうか。アメリカン・ファーストは米国のパイオニア精神、ドリームを表現している。そして本来、それらはサムシング・グレート(米国の建国の話)と結びついていた。それがいつの間にか、その繋がりがほどけ、今では生命綱が切れて宇宙空間にほっぽり出された宇宙飛行士のように彷徨っているのだ。

以下は当方のトランプ氏への願いだ。米国ファーストを撤回する必要はないが、切れてしまったサムシング・グレートとの繋がりを取り戻す運動に力を入れて頂きたい。新型コロナ感染で大量の失業者が生まれてきた。停滞する経済を早急に回復しなければならない。それらの課題は大統領として取り組まなければならない課題だ。一方、人種差別問題、「貧富・医療の格差」は米国の偉大さを傷つけている汚点だ。米国がファーストとなり、偉大さを取り戻すためにはクリアしなければならない。米国ファーストがサムシング・グレートと再び連結された時、「米国の偉大さを再び取り戻す」道が開かれるのではないか。

当方はトランプ氏に期待する。聖書の放蕩息子の話を思い出してほしい。如何なる人も生まれ変わることができる。トランプ氏が変われば、これ以上の偉大な証人はいないだろう。神は自身を証してくれる指導者を探しているはずだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年10月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。