ドイツ慰安婦像、なぜ撤回できなかったか?

岡本 裕明

ドイツ、ベルリンの公有地に設置された慰安婦像をめぐり、管轄のベルリンのミッテ区の判断が揺れ、一時、撤回指示が出たものの韓国の市民団体が裁判所に撤去決定の効力停止を求めたため、撤回を見合わせ、裁判所の判断に任せる状況となりました。

(ベルリンに設置された少女像、KBSニュースより:編集部)

(ベルリンに設置された少女像、KBSニュースより:編集部)

私は10月10日付の当ブログで日本政府が本件に全面的に関与してきたことに対して「基本的には政府が表舞台に立つのはタブーなのですが、茂木外相の戦略変更は長期的に功をなすのでしょうか?」と申し上げました。残念ながら懸念したとおりになってしまいました。

このような「戦い」は実際に参戦したことがある人ではないとなかなか肌感覚ではわからないものです。私はバンクーバーで「慰安婦像」問題と「南京事件記念日」問題の二つに直接的に関与してきましたが、その時に思ったのは市民レベルの戦いは市民レベルで対応するしかないことです。日韓の政府間の間で上がるさまざまな問題とこの世界各地で起きる慰安婦像問題はやや性質が異なり、本件は世界中の韓国系市民団体が主導している点であります。そこに日本が政府として介入するのは話を複雑にします。

事実、「裁判の判断を待つ」ということになりました。これは最悪のシナリオです。なぜなら、判決が日本にとって都合の良いものになればよいのですが、逆の場合、慰安婦像が一気に広がってしまう前例を作ってしまうのです。私から見れば完全にボタンを掛け違えたとしか思えないのです。

特に裁判となるとドイツの場合、戦中までのヒットラードイツを完全否定し、国家自体がreborn(生まれ変わり)しています。言い換えれば、ヒットラードイツを三人称扱いにできる国だという点で日本の主張が通りにくい素地がある気がしています。

今回の問題はベルリンの日本人社会があまりに小さい点が日系の市民団体としての活動につながらなかった可能性は大いにあると思います。外務省の資料によると2019年にベルリンの日本大使館管轄地区に住む日本人は長期滞在者が4370人、永住者に至っては751人しかいません。長期滞在者とは概ね、ベルリンあたりなら企業の駐在員、研究者、政府関係者とその家族が主体だと思いますので市民活動はまずやらないでしょう。ちなみにバンクーバー地区は長期滞在者が11400人、永住者が24000人いるうえ、いわゆる日系人がそれと同等人数ぐらい(人数の把握は不可能)いるため、市民活動展開がしやすかったことはあります。

市民活動と何でしょうか?共通のインタレストを持つ人が声を上げて地方自治体や政府に働きかけをして生活や環境を守ったり改善をすることです。今回の場合、ベルリンのほぼ中央にあるミッテ区がその舞台です。そうなるとミッテ区に居住する人の声が最も重要であり、それ以外の居住者の声は参考程度にしかならないのです。

つまり、本件、現地大使館のみならず、外務省から大臣まで参戦したわけですが、そもそものプロセスが違うと感じたのです。本来であらば750人しかいないベルリン地区の日系の永住者からミッテ区に住む日本人に立ち上がってもらうしかない、そして日本人で数が足りないなら現地の人の協力を貰うなどの横のつながりを大使館がアシストする体制が必要だったと思うのです。現地日本大使館の役目は黒子に徹するべきだったのではないでしょうか?どうもその戦略と展開がうまくワークしなかったと私は見ています。

今、私がバンクーバーで重要だと思う政策は日本人と日系人とのリンクです。そして最終的に必要なのはそれぞれの市やエリアに住む日本人、日系人との密接なつながりです。今、これをやれる人がいません。私も支えをしていますが、まだ現役の身でとてもそれはできません。

そんな中、最近は県人会見直しの機運があります。「海外ならでは」の出身県による県人会を強化させたいという動きです。なぜならこれぞ日系人と日本人を結びやすいネタのひとつだからです。(日本人と日系人は考え方の相違について懸念されるべき状態にあります。)そのため、私もある日系人の旗振り役の方に熱いエールを送ったこともあり、明日、県人会会議が開催されるに至り、私もビジネス団体の議長としてオブザーバーながら参加させて頂く予定です。

海外に住む日本人は何処に本拠地を持ってくるのか、と言えば本来であれば住む街であるはずです。(駐在員の本拠地は日本です。)とすればマイノリティである自分たちの声をいかに反映させるか、不断の努力が必要なのです。在外公館は助けてくれますが、人も変わるし、コミュニティに根付くわけではない、とすれば自らがより海外日系社会をより頑強なものにしていく必要があると改めて思った次第です。

こういう問題が起きたとき、さっと体制が取れるよう普段からのコミュニティの形成が重要だというのが改めて認識されたと思います。

ことの展開には引き続き留意したいと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年10月15日の記事より転載させていただきました。