不妊治療は今②:不妊治療は不要不急なのかーコロナでも治療を続けたい

恩田 和

Hades/写真AC:編集部

今年5−7月に全国の自治体が受理した妊娠届は、去年の同じ時期より11.4%減少ーー。

厚生労働省が今月21日に発表したデータが衝撃的だ。特に5月の減少幅は17.1%と深刻で、新型コロナウイルスの感染拡大が影響した可能性が大きい。外出自粛で実家との行き来が制限され里帰り出産の予定が立てづらくなったことや、検診時の院内感染への警戒などで、自主的に妊娠の予定を「延期」したケースもあるかもしれない。厚労省は、「妊娠を控えたり、外出自粛で届け出を出さないなど複合的な要因が考えられる」とコメントし、これを「産み控え」と報じたメディアもあった。

こうした報道を受けて、今、日本生殖医学会が4月1日に発表した「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する日本生殖医学会からの声明」がクローズアップされている。これは、不妊治療を担う学会員の医師に向けて発表されたもので、

「不妊治療の延期を選択肢として患者さんに提示していただくよう推奨いたします」

と記されている。患者への伝え方は各医師の判断となり、中には「不要不急のご妊娠は一時延期を推奨する」など、強い文言を使って治療の中断を促した医師もいたという。

不妊や不育で悩む人をサポートするNPO法人Fineが7月に実施した「with コロナ時代の妊活中の不安に関するアンケートには、不安、怒り、悲しみの声が多く寄せられた。

「いつまで延期になるのか先が見えない」
「不妊治療が不要不急と考えられている」
「不妊治療だけ延期するのは納得できない」
「自分にとっては大切な不妊治療なのに」

中でも切実なのが、「年齢の壁」と戦いながら治療を続ける30代、40代の声だ。新型コロナウイルス感染への不安を感じながらも、年齢のタイムリミットがある中で治療の延期や中断を迫られることへの苦悩が伺える。

「年齢的にも先延ばしにしたくない」(30代女性)
「年齢的に時間がないのにどうすればいいのかと悩んだ」(40代女性)
「コロナ感染の不安があったが、年齢は戻せないので治療を中断しようという思いにはなりませんでした」(30代女性)

コロナ禍でも治療を継続するか、また、感染リスクをおかしてまで通院するべきなのか、夫婦間で意見が分かれ、ただでさえ心身に負担のかかる不妊治療中に余計なストレスを抱えてしまうケースや、コロナのあおりで失業してしまい、治療継続のための経済的な安定を失ったケースも報告された。不妊治療の現場、当事者にも、コロナが大きな影を落としているのは間違いない。

それでも、アンケート結果からは、治療を続け、妊娠を望んでいる人が多いことが分かっている。特に、年齢が上がるほど、また、体外受精や顕微授精など、治療のステップが進むほど、コロナ禍でも治療の継続を望む人が多い傾向が見られる。

「こんな時に妊活・・・なんて思わないでほしい。こっちには時間がない。切羽詰まっているんだ」(40代女性)
「もっと妊活をしている人への切実な想いを知ってほしい。妊娠は今しかないという気持ちへの理解と、妊婦や高齢者にうつさない努力を社会全体で取り組んでほしい」(30代女性)
「妊婦だけではなく、不妊治療をしている人にも、同等の配慮をお願いしたい」(30代女性)

社会への要望として集められた声に、耳を傾けなればいけない。

NPO法人Fineでは、「withコロナ時代の今、不妊・不育治療患者様が感染防止の対策をしながら治療を継続できるよう『不妊・不育治療は不要不急ではない、妊娠・出産には年齢のリミットがある』ことを広く社会に理解していただき、治療を続けることが非難されない社会になることを希望します」と結んでいる。