日本のような超高齢化社会においては、逆説的に、長寿化こそが成長戦略の要にならなければならない。金融において、長寿化が創造する新たな可能性を検討すること、それがフィナンシャル・ジェロントロジーである。
フィナンシャル・ジェロントロジーの最大の課題は、いうまでもなく、人が働いている期間中に豊かな老後生活のための原資を形成できる環境の整備であるが、同時に、老後生活が始まった後は、資産を効率的に稼働させ、また計画的に取り崩すことが課題となる。
資産の取り崩しにおいて、決定的に重要なことは余命のリスクである。いつまで生きるかは誰にもわからない。わからないから、現実には、長生きに備えて資産を取り崩すことができず、豊かな老後のための消費ができなくなっているのである。
このことは、超高齢化社会においては高齢者の消費が経済に与える影響が極めて大きいのだから、単に個人の幸せの問題ではなくて、経済政策の面からも看過できない。金融庁としても、経済の持続的成長と国民の厚生の増大を金融行政の目的に掲げているのだから、高齢者が安心して消費できる社会の実現は最重点の政策課題になるのである。
そこで、最低保障の下支えとして、保険の社会的必要性が生まれるのである。余命のリスクに保険をかけるということは、公的年金の上乗せとしての最低限の終身年金保険に、一定の医療費を保障する保険を付加することに帰着する。仮に、これらの保険を保険料一時払いで契約すれば、残りの貯蓄は、自己評価としての余命判断に基づき、一方で安定的に運用しつつ、他方で計画的に取り崩して消費に充当することができるのである。
こうした機能を一つの保険商品に構成すれば、例えば、一時払いの終身年金保険として、そこに年金額の逓減の要素を加えて、医療保障特約を付せばいいことである。この場合、顧客の利益の視点にたてば、保険要素ごとに適正な方法で原価が開示されて、適正な手数料のもとで販売されなければならないことはいうまでもない。
しかし、別に一つの保険に纏める必要もない。生命保険では、伝統的に、バンドリング、即ち複数の金融機能を一つの商品に統合することが多用されてきた。特に、貯蓄と保険のバンドリングは顕著である。しかし、バンドリングには、顧客にとって不必要な機能まで保険会社の都合で付加したり、費用構造を不透明にしたりするなどの欠点がある。
そこで、顧客の利益の視点で透明性と利便性を高めるために、アンバンドリング、即ち機能を分化する方向が生じる。アンバンドリングされた機能は、改めて顧客の真の利益に適うように、リバンドリング、即ち再統合されればいい。リバンドリングを行うものは、顧客自身であっても、保険の販売を行う銀行等であっても、その他の非金融機関であってもいいわけであって、保険会社である必要は全くないのである。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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