これまでに2人の候補に絞られていたWTO次期事務局長の選出について話し合うため、10月28日にジュネーブで開かれた加盟国代表の非公式会合で、EUなど100ヵ国以上がナイジェリアの候補を推薦したのに対し、米国は韓国候補の支持を表明したようだ。
これについて韓国青瓦台高官は29日、「まだ特別理事会などの公式手続きが残っている」との立場を示した。全会一致での合意が原則のため11月19日の特別一般理事会が残っており、また米国が韓国候補を支持しているので、形勢はまだ流動的と判断したものとみられる(29日の聯合ニュース)。
同高官はまた、「WTO選挙の手続き上、調査結果は公開しないのが原則だ」とし、「従ってナイジェリア候補の具体的な得票数に言及した国内外メディアの一部報道は一方的な主張だと考える」と述べ、ナイジェリア候補が加盟163ヵ国中100ヵ国以上の支持を得たとの分析にも異議を唱えた。
米国がナイジェリアのオコンジョイウェアラ候補を支持しないであろうことは疾うに明らかで、EUの同候補支持がおおむね確実になった21日の「Bloomberg」も、「WTO次期事務局長選、最終候補者の支持巡りEUと米国が対立」と報じていた。
米国が究極の二択で韓国の愈明希候補を支持した理由は、ナイジェリアがダム投資などで中国の影響下にあるからだ。エチオピアのテドロス率いるWHOの有様を見ても、中国の覇権主義と鋭く対決する米国がナイジェリア候補を支持することは考えられなかった。
EUがナイジェリア候補支持に回ったのがむしろ不思議だが、愈候補がそこまでEUに嫌われたのは日本にとって僥倖。この先、仮に愈候補が多数の推薦を得る形勢となっても、日本は断固拒否すべきだ。理由は単純明快、愈候補のこれまでの言動から、彼女が公明正大ではないことが明白だからだ。
日本が昨年7月に厳格化した対韓輸出管理を韓国が不当としてWTOに提訴したため、日韓は目下係争中だ。兪候補は産業通商資源省通商交渉本部長としてこの件に深く関わり、厳格化がWTOなどの国際規範に合致しないと日本を批判し、撤回を要求している(10月8日産経)。
文大統領が通商交渉本部長に抜擢した兪氏は、福島近県産水産物禁輸をめぐるWTOでの逆転勝訴でも成果を上げたとされる。そのことは措いても、今回の出馬表明で「WTOの国際協調体制の復元・強化は韓国経済や国益に重要だ」(前掲産経)と述べた一事を以て、すでに事務局長の資格がない。
本件では米政治メディア「POLITICO」が現地時間27日、米国が韓国候補を支持しているように読める記事を掲載し、韓国中央日報も翌28日に「米国も乗り出した…在外公館に『WTO事務局長の韓国候補支持、それとなく勧めよ』」とその追いかけ記事を報じていた。
POLITICOには米国務省が在外公館に発した指示公電の内容が載っている。
-A U.S. official said the cable directs U.S. diplomats to attempt to gauge where their host governments stood on the race for WTO chief, and that if they didn’t have a commitment or a decision, to gently nudge them to back Yoo rather than Okonjo-Iweala. Embassies in countries that have already declared a preferred candidate were not required to engage in the exercise.
[拙訳] 米当局者は、公電が米国の外交官に、駐在国政府がWTO事務局長の選出でどこを支持しているかを推測するように指示し、コミットや決定がない場合、オコンジョイウェアラでなく愈を支持すことをそれとなく薦めるよう試みることを指示していると述べた。すでに良いと思う候補者を宣言している国の大使館は、その行為に従事する必要はない。-
態度を表明していない国には「nudge」、すなわち「つついてシグナルを送り」、すでに態度表明している国にはその必要はない、などとかなり腰の据わらない指示のようだ。だが、元々WTOへの不信感が強かった米国は、この先事務局長が決まらない事態になろうとも意志を曲げない可能性が強い。
この5月にアゼベド事務局長が、来年8月までの任期を1年残して8月末での辞任を表明したことが予想外だったとはいえ、当初の5人の候補からアフリカ出身の候補と韓国の候補に絞られてしまったことは、日本と米国にとって余りにも不覚だった。
候補5人は前述の2人の他は、ケニアの女性とサウジと英国の男性だった。男性2人のどちらかが残らない限り、今日の予測は可能だった。が、発足以来25年間の歴代事務局長6人が全員男性だったし、ジェンダーフリーが大手を振る昨今の状況から今日に至ってしまった。
福島処理水の海洋放出では、またぞろ韓国が自らを棚に上げて不当な言い掛かりをつけて来ている。我が国の立場を毅然として主張すべき時に、そうせずに済ませて来た日本の「お人好し外交」の悪しき前例は、菅総理にここらできっぱりと断ってもらいたい。日本も今のWTOなら要らない。